まだキスもしていない私達



今日、先輩の家に泊まりたい。
そう思っただけで、心臓がうるさくなる。
付き合って一年。
まだキスもしていない。
そろそろ、先輩とも。
夕日が見える窓をぼんやりと見つめ、彼が来るのを黙って待つ。
心臓が小さく鳴り、耳を澄ませる。
すると、廊下で響くかつかつとした足音。
窓から目を離し、席を勢いよく立ち上がる。

「お待たせ、葵」

私の名前を小さく呼ぶ嵩史先輩が目に映る。
いつものように落ち着いた雰囲気の先輩。
口元が緩み、小走りで近寄る。

「葵、帰るぞ」

すたすたと廊下を歩く先輩。
尖りかけた口を抑え、私も隣に並ぶ。
先輩の手、握りたかったのに。
先輩の大きな手に視線が釘付けになる。
一旦抑え、先輩にあの事を話してみる。

「ね、先輩。そろそろ…一年ですね」

先輩と付き合って一年。
口にしてみると、あっという間に思える。
どうしてか、胸の奥が少しだけ落ち着かない。
この人と、どこまで詰めればいいのだろう。
繋いだ手、たったの数回だ。
そろそろ一年、何かしたい。
冷や汗を感じながら顎に手を置いていると。

「…もう、そんなにか」

私の体を寄せ、耳元に囁く先輩。
体がゆさゆさと揺れ、黙ってうなずく。
まだ言えてないけど、そんな先輩が好き。
蒸し暑い通学路の中、先輩のアパートまで一緒に歩く。
海外に行ったらしい先輩の両親。
たまにお邪魔すると、思ったよりも綺麗になっている。
先輩の家を頭に浮かべている。
私の中で、一つの考えが浮かび始める。
先輩は何を言うのだろうか。
言葉が喉につっかかりかけるが。
頭で咀嚼し、先輩に伝える。

「先輩…今日だけ、お泊り会しましょ」