「そんなことで気を引けるとでも思っているのか?」
「……どういう意味でしょうか」
シャルレーヌは笑顔のまま首を傾げた。
今の話の流れでどうしてその話題になるのか理解できなかったからだ。
「化けの皮を被っているのだろう? 二国を取り込むように手引きする女だからと面白そうだからと受け入れたが、情に訴えかけるとはつまらないものだな」
ヴィクトールは吐き捨てるようにそう言った。
(まぁ……! こんなふうに思っていたなんて意外ですわ。今まではお互いに様子見だったということですわね)
この程度で絆されて同情しているようではつまらない。
むしろ警戒しているくらいでいいのだ。
医師を送り込んできたのも、彼なりにシャルレーヌの反応を見ていたのかもしれない。
「最初に言っておくが、お前を正妃にするつもりもないからな」
「はい、構いませんわ。むしろ正妃になんて絶対になりたくありませんもの」
「…………」
「あっ、申し訳ありません。心の声が漏れてしまいましたわ」
口元を押さえて笑うシャルレーヌだったが、さすがに夫であり正妃を選ぼうという皇帝に向けて言うセリフではないことはわかっている。
しかしあえて口に出しているのだ。
「…………貴様」
暗闇の中でシャルレーヌの細い首に突きつけられている黒い腕のようなもの。
彼の背後からは無数の触手のようなものがうねり狭い部屋を埋めていた。
「一体、何を考えている?」
そこ問いにシャルレーヌが答えることはない。
腕を伸ばして、嬉しそうに笑みを浮かべている。
「やっと会えましたわね。ひんやりとして気持ちいいですわ」
「──触れるなッ!」



