零班は落第寸前!――名門男子校は秘密のスパイ養成学校でした――

夜、寮へ戻ると、静かなはずの廊下の向こうがやたら騒がしかった。

「俺の部屋、名札が違う!」

「おい、三一二に知らない一年がいるぞ!」

「待て、お前ほんとに一年か!?」

ばたばたと足音が走る。扉が開く。誰かが笑って、誰かが怒鳴って、誰かが寮監を呼ぼうとしている。

白鷺が目を輝かせた。

「うわ、始まってる」

「何が」

「次の事件」

「軽く言うなよ」

火村はすでにうずうずしていた。

「見に行こう!」

九条が言った。

「走るな。目立つ」

でも、言った本人が一番早かった。

寮の掲示板の前は、人だかりになっていた。

A班のやつも、B班も、C班も、全員がざわついている。

掲示の一番上には、見覚えのある筆跡で大きくこう書かれていた。

『中等部一年 夜間実技課題』

「うわ、また試験だ」

俺が言うと、白鷺が笑った。

そして、その下を読んで、俺たちはそろって黙った。

『本日消灯までに、男子寮内に紛れた“偽一年生”三名を特定し、それぞれから学生手帳を回収せよ。
条件、人を泣かせるな。壊すな。寮監へ告げ口するな。班外と組むな。』

火村が顔を上げた。

「三名!?」

九条が即座に言った。

「多いな」

白鷺がにやっとした。

「いいじゃん。祭りの次は寮内潜入だ」

「休ませる気ゼロだな」

俺が言うと、大河内が短くうなずいた。

「……そこで納得するなよ」

ざわつく一年たちの頭越しに、俺は掲示のいちばん下を見た。

追伸みたいに、小さく一文だけ足されていた。

その一文を読んだ瞬間、俺たちは全員で自分たちの部屋のほうを振り返っていた。

『なお、対象者のうち一名は、すでに零班の部屋に入っている』。