零班は落第寸前!――名門男子校は秘密のスパイ養成学校でした――

「直!」

白鷺の声。

俺は息を止めて、真鍮の輪だけを見た。

狙って、撃った。

ぱしっ、と乾いた音がした。

豆弾きの小さな弾が輪を打った。輪が揺れて、赤い非常ランプが一つ明滅する。

ぎぎっ、とシャッターが止まった。

火村の頭のすぐ上、紙一枚ぶんもないところだった。

「止まった!」

「豪!」

「……うん!」

大河内が前へ出た。両手でシャッターの下端をつかみ、そのまま持ち上げる。鉄が嫌な音を立てたけど、持ち上がった。

火村が這いぬけ、白鷺も戻る。九条が最後にくぐりながら言った。

「有馬、ナイスだ」

「今それ言う!?」

「今だからだ」

大河内がシャッターを押さえたまま、眉ひとつ動かさなかった。

「……早く」

「ごめん、今行く!」

俺たちはもう一度走った。

でも、真砂先輩は速かった。

抜路の先は三つに分かれていた。配管路、搬入路、旧礼拝堂裏。どの先にも薄暗い通路が伸びていて、どれも似たような顔をしている。

「どっちだ!」

俺が言うと、白鷺が床を見た。

「右!」

「なんで」

「裾のほこり!」

「分かるのお前!?」

「変装マニアなめるな!」

右へ曲がった先で、さらに奥の金属扉が閉まる音がした。

俺たちはそこまで走ったけど、間に合わなかった。扉の向こうからは、もう何の気配もしなかった。鍵も内側から落ちているらしく、びくともしない。

火村が肩で開けようとして、大河内に襟をつかまれた。

「……壊れる」

「ちぇっ」

「ちぇっ、じゃない」

九条が短く言った。

「追うのはここまでだ。戻る」

「ええっ!?」

白鷺が振り返る。

「今、模範生が普通に逃げたけど!?」

「逃げた先が分からないまま、抜け道に飛びこむほうが愚かだ」

「正論だけど悔しい!」

俺も悔しかった。でも、九条の言うことは合っていた。この下は抜け道だらけだ。俺たちが今のまま突っこんだら、真砂先輩を追う前に迷子になる。

「通信室だ」

俺は言った。

「先輩、向こうと連絡してた。何か残ってるはずだ」

九条がすぐうなずいた。

「戻るぞ」