零班は落第寸前!――名門男子校は秘密のスパイ養成学校でした――

息を止めたまま、五人で校長室の床に固まった。

「……入れた」

火村のささやきが震えていた。

「声がでかい」

九条が即座に切る。

「だって今の、だいぶ綱渡りだったよ!?」

「零班らしいな」

白鷺が小さく笑った。

校長室は、思っていたよりずっと広かった。濃い木の机、革張りの椅子、古い地球儀、壁一面の本棚、分厚いカーテン。机の上には緑の卓上ランプと、紙ばさみと、そしてほんとにあった。真っ赤な封筒が、ど真ん中に堂々と置かれている。

「あるじゃん」

俺が言うと、九条がすぐ止めた。

「待て。糸はない。封蝋もない。机の右端に圧痕なし。罠は見えない」

「見えない、って言い方が嫌だな」

「見えないだけだ」

その瞬間、火村が持っていた気逸らし一号が小さく、かち、と鳴った。

全員が固まった。

「お前、まだ持ってたのかよ!」

「回収忘れた!」

「今ここで正直になるな!」

大河内が無言で火村の手ごと装置を包みこんだ。鳴りかけたぜんまいが、そこでぴたりと止まる。

「……静か」

「豪、お前たまに万能だな」

「有馬」

「わかってる」

机までの距離は六歩。俺は歩いた。ランプの影をまたがず、机の角に手をつかないようにして、赤い封筒をつまむ。

軽い。

思った瞬間、白鷺も同じことを思ったらしい。

「薄っ」

「だから声がでかい」

封筒を持って振り返ったときだった。

後ろで、ごく小さく木が鳴った。

振り向くと、大河内が壁際で妙な格好のまま止まっていた。片手を肩より上に伸ばして、重そうな額縁を支えている。

「豪?」

「……絵、浮いてた」

でかい油絵だった。鷹が山並みの上を飛んでる絵。大河内がうっかりぶつけたわけじゃない。もともと右側が少し開いていたらしく、そのまま傾きかけたのを支えたらしい。

絵の裏に、四角い鉄の扉が見えていた。

「うわ」

白鷺の声が、今度はちゃんと小さかった。

「秘密金庫じゃん。ほんとに秘密学校だ」

九条の目が変わった。

さっきまでの毒舌顔じゃない。問題を見つけたときの顔だった。

「動くな」

絵の前にしゃがみこむ。金庫の扉は半開きで、番号ダイヤルは中途半端な位置で止まっていた。中は空だった。

そのとき、廊下の向こうで、かたん、と小さな音がした。

全員が火村を見る。

火村が青くなった。

「……気逸らし一号、時差式だった」

「今!?」

「先に言えよ!」

「忘れてた!」

九条が即座に立ち上がった。

「好都合だ。戻るぞ」

大河内が片手で絵をもとの位置へ戻す。重い額縁が、音もなくぴたりと壁に収まったのが地味にすごかった。