零班は落第寸前!――名門男子校は秘密のスパイ養成学校でした――

「……行く?」

大河内が短く言った。
その一言で、四人が同時にこっちを見た。

なんでそこで俺を見るんだよ、と思ったけど、たぶんさっき「一人で行くな」とか言ったせいだ。責任がちょっとだけこっちに飛んできてる。

俺は西回廊の灯りを見た。A班もB班もC班も、もうそれぞれ動いている。きれいで正しいやり方なんて、たぶん最初から俺たちにはない。

「行く」

言うと、白鷺がにやっとした。

「よし。優等生の真似はなし。零は零から始めよう」

白鷺は、細い眼鏡をつけて、薄い灰色の上着を羽織って前髪を分け、書類を挟み込む。そして、背中を少し丸め、目線を下げるだけで、さっきまでの白鷺が一気に薄くなった。

「どう?」

「生徒会室で毎日怒られて胃が荒れてる感じ」

火村も鞄の中をあさっていた。嫌な予感しかしなかった。

「こっちはこれ。無音くさびくん。こっちは気逸らし一号。で、これが輪ゴム式豆弾き」

床の上に、小さなゴムのくさび、ぜんまい仕掛けみたいな金具、手のひらサイズのやたら軽い発射器が並んだ。

「名前が全部雑だな」

「有馬にだけは言われたくない」

「俺、物に変な名前つけてないだろ」

九条が道具を一瞥して、短く言った。

「豆弾きは有馬。気逸らし一号は火村。白鷺は見張り役の前へ。大河内は扉が閉まるなら止めろ。俺が合図を出す」

「説明が早いな」

「遅いよりましだ」

白鷺が書類をぱたぱた振った。

「台詞は?」

九条はすでに廊下の先を見ていた。

「さっき見張りは真砂迅を素通しした。生徒会書記の名は効く。『真砂先輩から校長先生へ至急』で行け。あとは“曲げるな”とか適当に言え」

「適当でいいの?」

「お前の得意分野だろ」

「感じ悪いなあ」

「ほめている」

火村が豆弾きを俺に押しつけた。

「有馬、上の窓留めを狙って。右から二枚目の高窓、金具だけ外せばいい。壊すなよ」

「当たり前だ」

「有馬なら外せる」

大河内がぼそっと言った。

短いのに、妙にまっすぐだった。

「……外す」

俺が答えると、九条が一度だけうなずいた。

「右の見張りは七秒ごとに扉、四秒ごとに時計。左は物音に二拍遅れる。有馬の一発で両方の視線が切れた瞬間、火村。大河内。入るぞ」

「了解」

「うわ、ちょっと班っぽい」

白鷺が妙なところで感心していた。

「感動してないで行け」

「はいはい、秀才くん」