零班は落第寸前!――名門男子校は秘密のスパイ養成学校でした――

三限の会話術は、さらにひどかった。

教室の机が全部どかされて、向かい合う椅子が二脚ずつ置かれていた。黒板にはこう書いてある。

『嘘を見抜け』

俺は紙を見て、篠宮教官を見た。

「会話術ですよね?」

「会話には虚実が混ざる」

「急に怖いこと言うなあ」

白鷺はむしろ楽しそうだった。

「ようやく俺の出番では?」

「お前の出番はだいたいろくでもない」

最初の課題は単純だった。相手が三つ話す。そのうち一つだけ嘘。表情、間、視線、言葉の選び方を見て当てる。

白鷺は平然と三つ並べた。

「犬が好きです。算数が苦手です。昨日、ベットから落ちました」

「最後だけ雑だな」

俺が言うと、九条が即答した。

「全部本当だ。こいつは本当に落ちた」

「なんで知ってるの!?」

「寮の廊下まで音がした」

「最悪だ!」

笑いが起きた。

次は俺の番だった。

「えっと……納豆が好きです。朝は強いです。射的が得意です」

沈黙が落ちた。

白鷺が真顔で言った。

「真ん中」

九条も同時に言った。

「朝だな」

火村が挙手した。

「有馬、今にも倒れそうな顔してる」

大河内がぽつりと付け足した。

「……廊下で壁にぶつかった」

「見られてたの!?」

篠宮教官が一言で締めた。

「有馬、嘘をつくときだけさらにわかりやすい」

「救いがない」

そのあともひどかった。

「右と左、どちらの手に鍵が入っているか隠せ」と言われた瞬間、俺は無意識に左を見たらしい。

「今、目が答えた」

九条が冷たく言った。

「目に自我があるみたいに言うなよ」

逆に、俺が人の嘘を読む側になると、白鷺や九条には普通に騙された。

「出身は北だよ」

と九条が涼しい顔で言うから信じたら、あとで普通に南だった。

「何その無駄な嘘」

「有馬が簡単に引っかかるか試しただけだ」

「感じ悪っ!」

ただ、大河内の嘘だけは見抜けた。

「俺は朝のプリン、食べてない」

「嘘」

俺が言うと、大河内がまばたきした。

「……なんで」

「袖にカラメルついてる」

全員が大河内の袖を見た。

ほんとに小さく茶色い点がついていた。

白鷺が吹き出した。

「豪、証拠を連れて歩くなよ」

大河内は少しだけうつむいた。

「……うまかった」

「そこは正直なんだな」

さらに最悪だったのは、その次の課題だった。

『相手の出身地を、直接聞かずに聞き出せ』

白鷺はするっと相手の好きな食べ物から祭りの話へ持っていって、最後には出身地まで聞いていた。

九条は「その靴、どこの店だ」とか適当なことを言いながら、いつの間にか相手の家の最寄り駅まで引き出していた。

火村は途中で「地元のホームセンターの品ぞろえどう!?」と聞いて、別方向で情報を取っていた。

俺は九条の前に座って三秒考えたあと、

「お前、どこ出身?」

と聞いた。

「失格」

篠宮教官が即答した。

白鷺が机を叩いて笑った。

「だめだ有馬、駆け引きがまっすぐすぎる!」

「回りくどいの苦手なんだよ!」

「そこまでまっすぐだと、いっそ武器かもね」

「今のは全然褒めてないだろ」