零班は落第寸前!――名門男子校は秘密のスパイ養成学校でした――

教室の前には、古い真鍮の札で『一年零班』と出ていた。
俺は深呼吸して、扉を開けた。

中には、すでに三人いた。

窓際の席に座って本を読んでいる、やたら顔の整ったやつ。
教壇の横で何かの部品をいじっていて、机の下に半分潜ってるやつ。
そして、教室の後ろで一人だけ別の生き物みたいにでかい、無口そうなやつ。

三人が一斉にこっちを見た。

俺は勢いで右拳を胸に当てた。

「し、失礼します!規律と忠誠を!」

沈黙が落ちた。

窓際の美形が、本から目を上げて言った。

「何をしている」

「え?」

次の瞬間、背後で吹き出す声がした。

「ははっ、やるんだ、それ!」

振り向くと、白鷺が腹を抱えて笑っていた。
しかももう声が全然違う。

「お前っ!」

「ごめんごめん、あまりに素直だったからつい」

「つい、でやる初対面の悪ふざけじゃないだろ!」

俺が怒鳴った拍子に、教壇横の机の下からカチッという音がした。

「待って!」

部品をいじっていたやつが顔だけ出して叫んだ。

「今の合図、違う!」

次の瞬間、黒板の上に取りつけられていた変な箱が、ばしゅっと白い紙テープを吐き出した。
さらに遅れて、机の下から小さな旗が飛び出す。

『歓迎』

「うわっ!」

「成功した!」

机の下のやつが目を輝かせて立ち上がった。髪はぼさぼさ、制服のポケットからドライバーがのぞいている。

「音声起動式歓迎装置、ようやく――」

「失敗だろ」

窓際の美形が冷たく言った。

「歓迎される側が引いている」

「想定内!」

「想定が雑なんだよ!」

そのとき、後ろのでかいやつが無言で一歩近づいてきた。
殴られるのかと思って身構えたら、そいつは何も言わず、俺の肩に引っかかっていた紙テープをそっと取ってくれた。それから歓迎装置のコードを片手で引き抜いた。

ぶちっ。

「ちょ、待って、それ丁寧に!」

でかいやつは少しだけ眉を下げた。

「……悪い」

声は低いのに、言い方は妙にしょんぼりしていた。

白鷺が、俺と同じように右拳を胸に当てて見せた。

「改めまして。白鷺千景。変装と物まねが得意です」

「得意です、じゃない!」

「いやあ、有馬って、引っかかり方がきれいだよね」

「褒めてないからな!?」

窓際の美形は本を閉じた。

「白鷺、初対面で人を騙すな。うるさい」

「ええ~、仲良くなるためのスキンシップみたいなもんだよ」

そいつはようやく俺を見た。

「九条玲央」

「以上?」

「十分だろう」

「情報少なっ」

机のそばのやつが元気よく手を挙げた。

「火村匠!工作、仕掛け、小道具、機械、からくり全般担当!今のは歓迎装置試作七号!」

「七号であれなのかよ」

「六号までは煙が出た」

「怖いことをさらっと言うな!」

最後に、でかいやつが俺を見た。

「……大河内豪」

「短っ」

「豪は必要最低限しかしゃべらないの」

白鷺が勝手に補足した。

「でも力はすごいよ。さっき二階まで机四つ――」

「三つ半」

大河内が訂正した。

「半って何だよ」

「壊れてた」

「お前が壊したんじゃないだろうな」

大河内は少しだけ考えてから、正直に言った。

「……少し」

「少しかよ!」

教室の時点でだいぶ限界だった。
俺は扉のところで立ったまま言った。

「なんで俺、こんなのと同じ班なんだよ」

「こんなのとは失礼だなあ」

「自己紹介の時点でだいぶアウトだっただろ!」