放課後になり、私はいつも通り帰る準備をした。
鞄を肩にかけて教室を出る。
廊下を歩き、靴箱の前に来たとき。
なんでいるの。
西野が壁にもたれて立っている。
私は何も言わずに自分の靴を取り出した。
履き替えて、そのまま西野の前を通り過ぎる。
「おい」
後ろから声が聞こえた。
でも名前を呼ばれたわけじゃない。
私は振り返らずに歩き続けた。
「聖」
一瞬、足が止まりそうになる。
でもフルネームじゃない。
気のせいだと思って、そのまま歩く。
「俺の彼女の佐藤聖」
「もう何」
さすがに振り返った。
西野は少しだけ笑っている。
「ちょっとついてきて」
「え」
言い終わる前に、腕を掴まれる。
「ちょっ、西野」
そのまま引っ張られて歩き出す。
まただ。
結局今日も、西野にどこかへ連れて行かれる。
校門を出て、少し人通りの少ない道に入る。
「西野、行き先教えてくれないと困る」
「二人になれる場所」
「どこだよ、それ」
呆れてそう言うと、西野は急に足を止めた。
私は一歩遅れて止まる。
振り返った西野の表情は、さっきまでと少し違っていた。
「美術のときさ」
西野が静かに言う。
「俺から話しかけろって言ったけど」
少し間が空く。
それから、ぽつりと続けた。
「やっぱ嫉妬した」
西野は視線を逸らして、小さく笑った。
「なんかいい感じの雰囲気だった」
「恋バナしてたからじゃない」
「それでも」
西野はゆっくり私を見る。
「楽しそうだったことに変わりない」
その言葉に、少し言葉が詰まる。
「やっぱさ」
「なに」
「俺、余裕ない」
珍しく弱い声だった。
「仮って分かってるのに」
そして私を見る。
「聖が誰かと楽しそうにしてると、普通に嫌」
胸が少しだけざわつく。
私は目を逸らしながら言った。
「……仮なのに?」
西野は少しだけ笑う。
「仮でも彼氏だから」
その言い方が、やけに真面目だった。
少し沈黙が流れる。
「それと」
西野は少しだけ言葉を切った。
「聖が湊のこと好きだから、余計焦る」
思わず顔を上げる。
「好きじゃないって言ったじゃん」
すぐに言い返すと、西野は小さく首を振った。
「嘘」
「嘘じゃない」
「じゃあさ」
西野は一歩近づいてくる。
「なんであんな顔してたの」
「どんな顔」
「好きですオーラ全開の顔」
その言い方が、妙に真剣だった。
私は一瞬言葉に詰まる。
西野は続けた。
「一週間ずっと気にしてたくせに」
図星すぎて何も言えない。
「やっと話せて嬉しそうだった」
西野は少しだけ笑った。
でもその笑い方は、どこか寂しそうだ。
「そりゃ焦るでしょ」
そう言って、視線を落とす。
「俺の彼女なのに」
胸が小さく跳ねる。
西野は私の肩に、うなだれるようにして頭を乗せた。
「仮ってことくらい分かってるけど」
小さくそう呟く。
しばらくして、ゆっくり顔を上げた。
そしてもう一度、私を見る。
「でもさ」
少しだけ声が低くなる。
「好きな人が他の男のこと好きだったら」
一瞬、言葉が途切れる。
西野は目を伏せて、苦く笑った。
「普通、焦るよ」
その言葉に、私は何も返せなかった。
ただ、西野を見つめることしかできない。
西野は視線を外して、小さく息を吐く。
「……ごめん」
「なんで謝るの」
思わず聞き返す。
「重いこと言った」
西野は少しだけ困ったように笑った。
「仮なのに」
胸の奥が、少しざわつく。
私は視線を逸らしながら言った。
「あー羽村好きだー」
思わず空を見上げながら、そう叫んだ。
「えっ急に何」
隣で西野が目を丸くする。
自分でも何でこんなこと言ったのか分からない。
でも、胸の中に溜まっていたものが一気にこぼれた気がした。
西野はしばらく、じっと私の顔を見ていた。
それから、ふっと笑う。
「やっと言ったね」
少しだけ悔しそうに眉を下げる。
「あー悔しい」
そう言って悔しさは感じられないほど優しい顔で微笑む。
「まだチャンスある?」
その聞き方が、やけに素直だった。
私は少し考えるふりをする。
それから小さく言った。
「……仮の間だけね」
西野は一瞬きょとんとして、
それから、嬉しそうに笑った。
「十分」
そしてまた私の肩に軽く頭を乗せる。
「一ヶ月あるし」
「重い」
「幸せ」
西野のことは好きじゃないけど私もなぜか幸せだ。
鞄を肩にかけて教室を出る。
廊下を歩き、靴箱の前に来たとき。
なんでいるの。
西野が壁にもたれて立っている。
私は何も言わずに自分の靴を取り出した。
履き替えて、そのまま西野の前を通り過ぎる。
「おい」
後ろから声が聞こえた。
でも名前を呼ばれたわけじゃない。
私は振り返らずに歩き続けた。
「聖」
一瞬、足が止まりそうになる。
でもフルネームじゃない。
気のせいだと思って、そのまま歩く。
「俺の彼女の佐藤聖」
「もう何」
さすがに振り返った。
西野は少しだけ笑っている。
「ちょっとついてきて」
「え」
言い終わる前に、腕を掴まれる。
「ちょっ、西野」
そのまま引っ張られて歩き出す。
まただ。
結局今日も、西野にどこかへ連れて行かれる。
校門を出て、少し人通りの少ない道に入る。
「西野、行き先教えてくれないと困る」
「二人になれる場所」
「どこだよ、それ」
呆れてそう言うと、西野は急に足を止めた。
私は一歩遅れて止まる。
振り返った西野の表情は、さっきまでと少し違っていた。
「美術のときさ」
西野が静かに言う。
「俺から話しかけろって言ったけど」
少し間が空く。
それから、ぽつりと続けた。
「やっぱ嫉妬した」
西野は視線を逸らして、小さく笑った。
「なんかいい感じの雰囲気だった」
「恋バナしてたからじゃない」
「それでも」
西野はゆっくり私を見る。
「楽しそうだったことに変わりない」
その言葉に、少し言葉が詰まる。
「やっぱさ」
「なに」
「俺、余裕ない」
珍しく弱い声だった。
「仮って分かってるのに」
そして私を見る。
「聖が誰かと楽しそうにしてると、普通に嫌」
胸が少しだけざわつく。
私は目を逸らしながら言った。
「……仮なのに?」
西野は少しだけ笑う。
「仮でも彼氏だから」
その言い方が、やけに真面目だった。
少し沈黙が流れる。
「それと」
西野は少しだけ言葉を切った。
「聖が湊のこと好きだから、余計焦る」
思わず顔を上げる。
「好きじゃないって言ったじゃん」
すぐに言い返すと、西野は小さく首を振った。
「嘘」
「嘘じゃない」
「じゃあさ」
西野は一歩近づいてくる。
「なんであんな顔してたの」
「どんな顔」
「好きですオーラ全開の顔」
その言い方が、妙に真剣だった。
私は一瞬言葉に詰まる。
西野は続けた。
「一週間ずっと気にしてたくせに」
図星すぎて何も言えない。
「やっと話せて嬉しそうだった」
西野は少しだけ笑った。
でもその笑い方は、どこか寂しそうだ。
「そりゃ焦るでしょ」
そう言って、視線を落とす。
「俺の彼女なのに」
胸が小さく跳ねる。
西野は私の肩に、うなだれるようにして頭を乗せた。
「仮ってことくらい分かってるけど」
小さくそう呟く。
しばらくして、ゆっくり顔を上げた。
そしてもう一度、私を見る。
「でもさ」
少しだけ声が低くなる。
「好きな人が他の男のこと好きだったら」
一瞬、言葉が途切れる。
西野は目を伏せて、苦く笑った。
「普通、焦るよ」
その言葉に、私は何も返せなかった。
ただ、西野を見つめることしかできない。
西野は視線を外して、小さく息を吐く。
「……ごめん」
「なんで謝るの」
思わず聞き返す。
「重いこと言った」
西野は少しだけ困ったように笑った。
「仮なのに」
胸の奥が、少しざわつく。
私は視線を逸らしながら言った。
「あー羽村好きだー」
思わず空を見上げながら、そう叫んだ。
「えっ急に何」
隣で西野が目を丸くする。
自分でも何でこんなこと言ったのか分からない。
でも、胸の中に溜まっていたものが一気にこぼれた気がした。
西野はしばらく、じっと私の顔を見ていた。
それから、ふっと笑う。
「やっと言ったね」
少しだけ悔しそうに眉を下げる。
「あー悔しい」
そう言って悔しさは感じられないほど優しい顔で微笑む。
「まだチャンスある?」
その聞き方が、やけに素直だった。
私は少し考えるふりをする。
それから小さく言った。
「……仮の間だけね」
西野は一瞬きょとんとして、
それから、嬉しそうに笑った。
「十分」
そしてまた私の肩に軽く頭を乗せる。
「一ヶ月あるし」
「重い」
「幸せ」
西野のことは好きじゃないけど私もなぜか幸せだ。

