次の日。
私はまた河川敷に来ていた。
夕方の空はまだ明るくて、風が少し強い。
「ほんとに来た」
声の方を見ると、直央が笑っていた。
昨日と同じ場所。
河川敷の柵の前。
「来ちゃだめだった?」
「いや」
直央は肩をすくめる。
「暇人だと思っただけ」
「失礼」
私は少しむっとした。
直央はくすっと笑う。
「まあでも、ありがと」
「なんで」
「未練探し付き合ってくれるんだろ?」
私はため息をついた。
「まだ決めてない」
「えー」
直央は少し大げさに言った。
「じゃあ帰る?」
「帰らない」
直央は笑った。
「ほら」
「やっぱ優しい」
「違う」
私は河川敷の土手に座る。
直央も隣に座った。
風が草を揺らす。
しばらく沈黙が流れた。
それから私は聞いた。
「いつ死んだの」
直央は少しだけ黙る。
それから空を見上げた。
「去年」
「川で」
私は川を見る。
流れはゆっくりだった。
「事故?」
「まあ」
直央は笑う。
「そんな感じ」
「覚えてないの?」
「覚えてるよ」
直央は言う。
「でも未練はわかんない」
私は眉をひそめる。
「普通わかるんじゃないの」
「わかんないんだよ」
直央は笑う。
「気づいたら幽霊だったし」
「適当すぎ」
直央は草を触りながら言う。
「でもさ」
「たぶん」
「やり残したことなんだよな」
私は聞く。
「例えば?」
直央は少し考えた。
「彼女作るとか」
「くだらない」
私は思わず言った。
直央は笑う。
「だよな」
それから少し真面目な顔になる。
「でも」
「そういうのじゃない気もする」
風が強く吹いた。
川の水が光る。
私は聞いた。
「家族は?」
直央は少しだけ黙る。
それから言った。
「いるよ」
「でも会えない」
「幽霊だから」
私は何も言えなかった。
直央は急に明るい声で言う。
「まあいいじゃん」
「暇だし」
それから私を見る。
「未練探しゲーム」
「は?」
「俺の未練を見つけたらクリア」
「意味わかんない」
直央は笑った。
「面白そうじゃん」
私はため息をついた。
「ほんと適当」
「いいじゃん」
直央は言う。
「どうせ暇だろ」
私は黙る。
夕焼けが少しずつ赤くなる。
それから私は言った。
「……じゃあ」
直央が見る。
「少しだけ」
「付き合う」
直央は一瞬びっくりした顔をした。
それから笑う。
「やっぱ優しい」
「違う」
私は言う。
「暇だから」
直央は笑った。
「じゃあ決まり」
それから川を見る。
「俺の未練」
小さくつぶやく。
「なんだろうな」
そのとき私はまだ知らなかった。
その答えが——
私自身だってことを。
