君が消えるまでの49日間

「手伝ってよ」

直央の言葉に、私は顔をしかめた。

「なんで私」

「暇そうだし」

「失礼」

直央はくすっと笑った。

「まあまあ」

私は立ち上がった。

「帰る」

「えー」

「家あるし」

そう言って、私は河川敷の土手を歩き出す。

夕焼けはもうほとんど消えていて、空は暗くなり始めていた。

でも数歩進んだところで、後ろから声がした。

「なあ」

振り返る。

直央はさっきと同じ場所に立っていた。

「どうしたの」

「そこまで」

直央は、河川敷の階段を指さした。

「そこまでしか行けない」

「は?」

私は階段の方を見る。

直央はそこまで歩いた。

そして——

ぴたりと止まる。

まるで、見えない壁にぶつかったみたいに。

もう一歩進もうとする。

でも進めない。

「ほら」

直央は肩をすくめた。

「これ以上行けない」

私は眉をひそめる。

「なにそれ」

「幽霊の仕様」

「仕様って」

「知らんけど」

私はしばらく黙っていた。

風が強く吹く。

川の音が少し大きく聞こえる。

それから私は言った。

「……ほんとに幽霊なの?」

直央は笑う。

「さっき証拠見せたじゃん」

「たまたま音しなかっただけかも」

「じゃあ触ってみる?」

直央が手を差し出す。

私は少し迷った。

でも——

そっと手を伸ばす。

指先が触れた瞬間。

すり抜けた。

私は思わず手を引っ込めた。

「……」

直央は笑う。

「な?」

私は言葉が出なかった。

しばらく沈黙が流れる。

川の音だけが聞こえる。

「……で」

私はやっと言った。

「未練って何」

直央は空を見上げた。

「さあ」

「さっきも言ってた」

「ほんとにわかんないんだよ」

「じゃあどうするの」

直央は笑う。

「探す」

「どうやって」

「知らん」

「適当すぎ」

直央は肩をすくめる。

「でもさ」

それから私を見る。

「未練叶えたら成仏できるらしい」

「らしい?」

「うん」

「誰に聞いたの」

直央は少し考える。

「幽霊」

私は顔をしかめた。

「……適当すぎ」

直央は笑う。

「まあいいじゃん」

そして言う。

「暇なら付き合ってよ」

私は黙る。

夕焼けはもう消えて、空は暗くなっていた。

街の明かりが少しずつ灯り始める。

直央が言った。

「澪」

「なに」

「明日も来る?」

私は少し迷った。

それから言う。

「……暇だったら」

直央は笑った。

「じゃあまた明日」

私は河川敷の階段を上がる。

振り返ると、直央はまだそこに立っていた。

暗くなった河川敷で、手を振っている。

私は小さくため息をついた。

でも心のどこかで思っていた。

明日も来るかもしれない。