君が消えるまでの49日間

高校三年の春。


家にいるのが嫌で、私は河川敷に来ていた。


夕焼けが川を赤く染めている。
風が強くて、草がざわざわ揺れていた。


ここは人があまり来ない。


だから好きだった。


学校でも、家でもない。
私が逃げて来られる場所。


土手に座って、ぼんやり川を見ていると——


「なにしてんの?」


後ろから声がした。


びっくりして振り返る。


そこには知らない男が立っていた。


少し長めの黒髪。
ラフなパーカー。
高校生…より少し年上に見える。


私は眉をひそめた。


「……誰」


「いや、こっちのセリフ」


男はそう言って、勝手に隣に座った。


意味がわからない。


私は少し体を離す。


「話しかけないで」


「冷た」


男は笑った。


「思春期?」


「違う」


「じゃあ反抗期?」


「帰って」


私がそう言っても、男は帰らない。


むしろ楽しそうに空を見上げていた。


「ここ、いい場所だよな」


「……」


「人いないし」


「……」


「逃げるにはちょうどいい」


私は思わず顔を上げた。


男は笑っていた。


まるで、全部わかってるみたいに。


少しむかつく。


「あなたこそ、なんでここにいるの」


男は少し考えた。


「なんでだろ」


それから肩をすくめる。


「彼女作ってないからかな」


「バカじゃないの」


思わず言うと、男は笑った。


「まあでも」


男は立ち上がる。


そして言った。


「帰れないんだけどな」


「は?」


男は振り返った。


そして、軽く言った。


「だって俺」


少し笑う。


「幽霊だし」


私はため息をついた。


「……くだらない」


「ほんとだって」


「証拠は?」


そう言うと、男は少し考えた。


それから河川敷の柵の方へ歩く。


そのまま軽く飛び越えた。


普通なら——


着地の音がするはずだった。


でも。


音はしなかった。


私は固まる。


男が笑った。


「ほら」


「幽霊」


私は言葉が出なかった。


男は少し照れくさそうに笑う。


「早坂直央」


「一応、名前」


それから私を見る。


「お前は?」


少し迷ってから答える。


「……神崎澪」


直央は笑った。


「よろしく、澪」


夕焼けの光が川に反射していた。


そして直央は、何でもないみたいに言った。


「俺さ」


「未練あるらしいんだよね」


「だから成仏できてない」


私は思わず聞く。

「未練?」


直央は肩をすくめる。


「さあ」


「わかんない」


「でも暇なんだよ」


それから私を見て笑う。


「手伝ってよ」


私は眉をひそめた。


「なんで私」


直央は少し考える。


それから言った。


「だってお前」


「暇そうだし」


そしてもう一言。


「それに」


少し優しい声で言う。


「放っとけない顔してる」


私は何も言えなかった。


このときの私はまだ知らない。


この出会いが——


私の人生を変えることになるなんて。