川辺から少し離れた草の上を、右往左往しながら歩いていた。あの場所がどこだったか、体は覚えているつもりだったのに、いざ来てみると記憶より暗く、記憶より広かった。三十年前は自力でここまで来て、どこだか分からずに右往左往していたところを夏希に声をかけてもらった。今夜は記憶だけを頼りに歩いていて、その記憶がどこまで信用できるのか自分でも分からなかった。
リュックの中のロープの重さを意識した。今夜で終わりにする。それだけを決めて家を出てきた。あの場所で最期に月を見てから、と思っていた。それだけが今夜の目的だったはずなのに、あの場所に辿り着けないまま草の上を歩き続けていると、目的よりもあの場所そのものへの焦りの方が強くなっていた。夏希と並んで月を見たあの場所に、もう一度だけ立ちたかった。そう思いながら歩いていると、静寂の中に川のせせらぎと虫の声以外の音が聞こえてきた。
「多分、ここだと思うよ」
忘れるはずのない声だった。僕にこの声を忘れさせようと思ったら、三十年じゃ全然足りない。
声がした方向に顔を向けると、あの場所に夏希が座っていた。笑っていた。一瞬、宙に浮いているように見えたのも、あの時と同じだった。
夏希がいる。
そんな馬鹿な。そんなことがあるはずがない。頭の中で二つの声が同時に鳴った。三十年前と同じだった。幻影を追いかけてあの場所を訪れたあの夜も、きっとあそこにいるという確信と、いるはずがないという冷静な声が同時にあった。でも今夜は違った。確信の方が、はるかに大きかった。
僕が何も言えないでいると、夏希があの日と同じ口調で言った。
「こっちだってば」
三十年も待たせた夏希に文句の一つでも言ってやろうと思いながら、梯子の前に立った。一度だけ立ち止まった。上ったら何もいないかもしれない、という考えが頭をよぎった。でもすぐに消えた。どっちみち今夜で終わりにするつもりだったのだから、上ることを躊躇う理由はどこにもなかった。それよりも、上ることを選ぶ理由の方が、今の僕にははるかに大きかった。
梯子に手をかけた。錆の感触が手のひらに触れた。冷たかった。それでも手に力を込めて、一段一段上った。上るたびに夏希の笑顔が近づいてくる気がして、足に力が入った。最後の一段を踏み越えた瞬間に、夏希の顔がはっきりと見えた。
あの日のままの姿の夏希が、まっすぐ僕を見て笑っていた。
信じられなかった。頭が追いつかなかった。でもそんなことはどうだってよかった。今、目の前に夏希がいる。その現実だけで僕は十分だった。言葉が出てこなかった。体が動くより先に、涙が出てきた。
思わず抱きついて泣いた。三十年ぶりに夏希の胸で泣いていた。十八のときにこの人の胸で泣いた。四十八になった今も、僕はこの人の胸で泣いている。夏希は三十年前と同じように、優しく僕の頭を撫でてくれた。その手のひらの温もりが、三十年間ずっと覚えていたそれと同じで、それだけでまた涙が溢れた。幻じゃない。空耳じゃない。夏希が今ここにいる。その事実を体で確かめるように、僕は夏希にしがみついたまま泣き続けた。
「ごめんね夏樹、ずっと待たしちゃって。でも私、約束守ったでしょ? 生まれ変わって会いに行くって」
あまりにも非現実的なことに直面して、思考が追いつかなかった。でもそんなことはどうだってよかった。夏希の声が、三十年前と変わらずそこにある。それだけが、今の僕のすべてだった。
「実はね、死んだ後に天国か地獄に行くもんだと思ってたんだけど、月に行ったの。でさ、前に月に導かれし王子と王女とか言ってたじゃん? 本当に月に王様がいてさ、そこの息子が私を気に入っちゃって、私と結婚させるって言うの」
「待って」
突拍子もなくて、思わず声が出た。夏希が「何?」という顔でこちらを見た。
「本当の話?」
「どこまでが本当かは秘密」
夏希が笑った。三十年前と変わらない笑い方だった。この笑い方を、僕はずっと覚えていた。部屋の絵の中で笑っている顔と、今目の前で笑っている顔が、寸分違わず重なった。
「それでさ、私ビシッと言ってやったんだよ? 私にとっての月の王子は別にいるって。それでここまで逃げて来ちゃった」
「じゃあ」と僕は言った。
「生まれ変わってここに来たのは、本当?」
夏希が少し間を置いた。月明かりの中でその表情を見ていた。夏希はやがて静かに、でもはっきりと答えた。
「それは本当」
その一言が、三十年分の時間をまるごと貫いた。どんな言葉よりも重く、どんな言葉よりも温かかった。僕はまた泣いた。泣きながら夏希の話を聞いていた。涙が止まらなくて、拭いても拭いても溢れてくる。三十年分の想いが一度に溢れ出てくるようだった。
「夏樹は本当に素直だね」
そんな僕を見て、夏希が優しく微笑んだ。あの頃と何も変わっていない夏希がいた。ずっとずっと会いたくて、求め続けた夏希がいた。あの頃と同じように、泣いている僕を優しく包んでくれていた。
「夏希、会いたかった」
僕はどうにかして声を絞り出した。
「私も会いたかったよ」
夏希が吹き出しながら言葉を返した。お互いが当たり前のことを口に出して確認し合う。お互いがお互いの存在を確かめ合うように。三十年前のこの場所で出逢った二人が、三十年後の同じ場所で、また同じように確かめ合っていた。
少し落ち着いてから、夏希の隣に並んで腰を下ろした。三十年前と同じ場所に、三十年分だけ年を取った僕と、あの日のままの夏希がいる。三十年前と変わらず神々しく輝く月が、川面を幻想的に照らしていた。
「報告していい?」と僕は言った。
「何を?」
「三十年間のこと」
夏希が「うん」と頷いた。その顔が、少し真剣になった。
「施設の伝手で清掃の仕事に就いた。ずっとそこで働いてる。俺の絵、今も部屋に飾ってある。最初は正面に飾ったけど、夜中に目が覚めると絵の中の笑顔と目が合って眠れなくなったから、横の壁に向きを変えた。でも空気で分かるから、それで十分だった。夏希の描いた絵が部屋にあると、部屋の空気が変わる。横になって天井を見ていると、その空気がひりひりと皮膚に触れてくる感じがした。それが辛いときも、有難いときもあった」
「ずっと飾ってくれてたんだ」と夏希が言った。小さな声だった。
「当たり前だろ」
「当たり前じゃないよ」と夏希が言った。「三十年間、ずっとなんて」
夏希が黙った。何かを飲み込もうとしているような沈黙だった。僕はその横顔を見てから、続けた。
「毎年、命日に近い満月の夜にここへ来てた。三十年間、一度も欠かさなかった。五年目はまだ夏希が来るかもしれないと本気で思ってた。十年目は、もう来ないかもしれないと思い始めてたけど認めたくなかった。二十年目は、来ないとわかっていた。それでも来た。なぜ来たのかは分からなかった。でも来てしまう。足が覚えているのか、それとも来ずにはいられない何かが自分の中にあるのか、考えても答えは出なかった」
「知ってる」と夏希が言った。
「知ってるの?」
「月からずっと見てたから」
少し間があってから、僕は言った。
「それ、ちょっと怖い」
夏希が吹き出した。つられて僕も笑った。三十年ぶりに笑った気がした。実際には笑っていたはずなのに、この笑いだけが質が違った。腹の底から、力が抜けるように笑えた。後輩と缶コーヒーを飲んだ夜も笑った。同僚と食事に行った夜も笑った。でもそのどれとも違う笑い方だった。
「あと、職場で後輩の面倒を見るようになった。三十代の頃に、失恋してすごく落ち込んでた後輩がいて。俺、気の利いたことが何も言えなくて、泣いていいよ、とだけ言ったら号泣されて。その後輩がすっきりした顔で『辻村さんって話しやすいですね』って言ってた。そんなことを言われたのは初めてで、どう返していいか分からなかった」
「泣いていいよ、か」と夏希がゆっくり繰り返した。
「夏樹らしい」
「夏希に泣かせてもらった俺は贅沢だったんだなって、そのときやっと思った」
「そりゃそうだよ」と夏希が笑った。
「私の胸は特別だから」
「そうだな」
僕はそう答えて、また泣きそうになった。
「施設の職員に静江さんって人がいたんだけど」と僕は続けた。
「静江さん?」と夏希が聞いた。
「退所の夜に、部屋にプリンを置いていってくれた人。そのときは仕事だからそうしているだけだと思って、ちゃんと受け取れなかった。三十代の後半にスーパーで偶然再会して、そのときに初めてお礼が言えた。今になってやっと、あれが本心だったんだってわかった、って言ったら、静江さんが泣いた。気づくのに二十年近くかかってしまった」
「よかった」と夏希が言った。声が柔らかかった。
「夏希がいなかったら、あの気づきも生まれなかったと思う。誰かの気持ちを受け取ることを、夏希と出逢ってから少しずつ覚えてきた気がする。退所したばかりの頃の俺は、誰かが何かをしてくれても、仕事だからとか義務だからとか、そういう理由に変換しないと受け取れなかった。それが少しずつ変わってきたのは、夏希のおかげだと思う」
夏希は何も言わなかった。でもそばにいる気配が、少し温かくなった気がした。
「浮気はしなかったよ」
「知ってる」と夏希がまた言った。
「また月から見てたの?」
「そう」
「本当に怖い」
今度は二人同時に笑った。
笑い終えた後、少しの間だけ黙っていた。川のせせらぎが聞こえる。虫の声が聞こえる。三十年前と何も変わらない音が、二人の間に満ちていた。
夏希が静かに口を開いた。
「夏樹、今夜ここに来た理由、教えてくれる?」
聞いてくるとは思わなかった。でも隠すつもりはなかった。
「終わりにしようと思って来た」
夏希が黙っていた。川の音だけが続いていた。僕は続けた。
「三十年、待ってた。でも信じ続けることと、信じ続けられることは違った。信じようとすればするほど、夏希の言葉が遠くなっていく感覚が年を重ねるごとに強くなって。手紙を読むたびに泣いたけど、読み終えるたびに、夏希がどんどん遠くなっていく気がした」
夏希はまだ黙っていた。月の方を見ていた。横顔が月明かりに照らされていた。僕はその横顔を見ながら、言葉を続けた。黙っていると泣いてしまいそうで、それよりは話し続けていた方が楽だった。
「ある夜、食卓に座って箸が止まった。三十年間、ずっと一人で食べてきた。夏希が死んでからも、静江さんと再会した後も、後輩と話した夜も、家に帰れば一人だった。夏希と月の下でおにぎりを食べたあの夜だけが、違った。誰かと食べたいと思って食べる食事を、あの夜以来一度もしていないことに、そのとき気づいた。もう十分だ、という気持ちになった」
夏希が静かに息を吸う音がした。川の音だけが続いていた。その沈黙が責めているわけでも、否定しているわけでもないことは分かっていた。夏希はただ、全部聞こうとしていた。あの頃も夏希はこうして、僕が何を言っても途中で遮らずに最後まで聞いていてくれた。
「手紙を取り出して、読んだ。泣いた。夏希の文字は三十年前と変わらなかった。でも読み終えて手紙を畳みながら、あれは三十年前の夏希の言葉だって呟いた。今の夏希はどこにもいないって。声に出したら、涙が出てきた」
夏希がゆっくりとこちらを向いた。
「夏希の嘘つき、って思った?」
月から見ていたのかもしれない。
「思った」と僕は答えた。
「声に出して言った」
夏希が小さく笑った。笑いながら泣いていた。月明かりの中で、夏希の目が光って見えた。
「ごめんね」と夏希が言った。
「本当にごめん」
「謝らなくていい」
「でも」
「来てくれたから。それで十分だ」
夏希の頬を涙が一筋伝っていた。月明かりの中でそれが光って見えた。
「怒らない?」と夏希が聞いた。
「怒ってるよ」と僕は答えた。
「来るのが遅い」
夏希がまた吹き出した。笑いながらまた泣いていた。
「ごめん」と夏希が言った。
「もっと早く来るつもりだったんだけど、月の王子がしつこくて」
「また嘘っぽい言い訳」
「本当のことだって」
夏希が笑いながら言って、僕もまた笑った。笑いながら、胸の奥に積もっていた重いものが、少しずつほぐれていく感じがした。三十年間、ずっとそこにあった重さが、夏希の笑い声で溶けていくようだった。
ふと気づいた。リュックをまだ背負ったままだった。肩から下ろして、自分の膝と夏希の膝の間のコンクリートの上に置いた。ロープの重さが、肩からなくなった。それだけのことが、ひどく軽かった。
「それ、捨てていいよ」と夏希が言った。
「うん」と僕は答えた。
返事をしながら、捨てなくていいかもしれないとも思っていた。もう必要ない、という感覚の方がずっと強かったから。捨てるという行為すら、今夜はどうでもよかった。今の僕には、もう必要のないものだった。
夜が深くなるにつれて、空気が冷えてきた。川面の月が少し揺れていた。風が出てきたのかもしれなかった。
「ねえ夏樹」と夏希が言った。
「夏樹の絵、ちゃんと笑ってた?」
「笑ってた」
「よかった。あのとき、どの表情を描こうかすごく迷ったんだよね。夏樹って色んな顔するから」
「色んな顔?」
「そう。施設を出たばっかりで死にそうな顔もするし、おにぎり食べながら子供みたいな顔もするし、月見て詩人みたいな顔もするし、泣きながら怒った顔もするし」
「それは夏希のせいだ」
「私のせい?」
「夏希がいたから、俺はあんな顔ができた。夏希がいなかったら、あの笑顔は出てこなかった」
夏希が黙った。少し長い沈黙だった。
「じゃあよかった」とやがて夏希が言った。「あの絵、描いてよかった」
「当たり前だろ」
「当たり前じゃないよ」と夏希が言った。声が少し柔らかくなった。
「余命宣告されてから、描くたびに思ってたんだ。この絵は私が死んだ後も残る。だから私が生きた証になる、って。でもさ、夏樹の絵を描き終えたとき、それだけじゃ足りないって初めて思った」
「それだけじゃ足りない?」
「景色を残したいんじゃなくて、夏樹に残したかったんだと思う。あのときはそう言葉にできなかったけど」
その言葉を聞いて、胸が痛くなった。痛くなりながら、温かかった。夏希の絵の中では時間が止まる、と僕が言った夜のことが頭に戻ってきた。だとしたら夏希はここにいる、と部屋の絵を見ながら思ったあの夜のことが。
「ちゃんと届いてたよ」と僕は言った。
「夏希がいない夜に、何度も何度も絵を眺めた。夏希の絵の中では時間が止まってる。だとしたらここに夏希がいる、ってずっと思ってた」
夏希がまた黙った。今度は泣いているのかもしれない。月明かりの中では確かめられなかった。
しばらくして夏希が「あのスケッチブック、お母さんから受け取ってくれてありがとう」と言った。
「最後のページの走り書き、覚えてる?」と僕は聞いた。
「うん」と夏希が答えた。
「あの頃、本当にそう思ってた。描きたいものが多すぎて、時間が全然足りなかった。今も、まだそう思ってる」
「今も描いてるの?」
「また描き始めてる」と夏希が言った。
「月にいた頃は不思議とあまり描けなかったんだけど、戻ってきたらまた描きたくなった」
「何を描いてるの?」
夏希が少し考えてから答えた。
「月。それから、川。それから」と言って夏希が笑った。
「手のかかる男の顔」
「また俺の絵か」
「だって描きたいんだもん。夏樹の顔、三十年分変わってるから。描き直さないと」
その言葉が、不意に胸に刺さった。三十年分変わった俺の顔を、夏希がまた描こうとしている。あの夜々のことを思い出した。月の下で夏希に顔を見られていた夜々のことを。夏希はあのときも、こんなふうに僕の顔を観察していたのかもしれなかった。
「ねえ夏樹」と夏希がまた言った。
「さっきの話だけど、終わりにしようって思ってたって言ってたじゃん」
「うん」
「今も、そう思ってる?」
川のせせらぎが聞こえた。虫の声が聞こえた。月が川面に映って、静かに揺れていた。
「思ってない」
正直に答えた。嘘ではなかった。夏希の声を聞いた瞬間から、そのつもりはなくなっていた。来ないとわかっていても三十年間あの場所に来続けたこと自体が、まだ諦めていなかった証拠だったのかもしれない。
「よかった」と夏希が言った。声が少し震えていた。
「私がいない間、ちゃんと生きてくれてて、よかった」
「手紙に書いてあったから」
「それだけ?」
少し考えてから、答えた。
「それだけじゃない。でも、それが最初だった。夏希の言葉があったから、三十年もった」
夏希はしばらく黙っていた。それから静かに言った。
「ありがとう」
その一言が、三十年分の重さを持っていた。僕はそれを、黙って受け取った。
どのくらいの時間、そうしていたか分からない。月が動いていた。川の音は変わらなかった。空気が少し冷たくなっていたが、夏希が隣にいるだけで、寒くはなかった。
「まだここにいていい?」と夏希が聞いた。
「ずっといていい」と僕は答えた。
夏希がそっと僕の手を取った。少し冷たい夏希の手のひらが、それでも確かにそこにあった。僕は握り返した。離したくなかった。三十年前も、こうして夏希の手のひらの温もりを感じたことがあった。泣いている僕の頭を撫でてくれた、あのときと同じ手のひらだった。少し冷たくて、でも確かにそこにある手のひらだった。
「今度は、どこにも行くなよ」
「うん」
夏希が頷いた。その横顔を見た。月明かりの中に浮かぶ夏希の横顔は、十八のときと変わらなかった。白く透き通った肌と、スッと通った鼻筋と、大きな瞳。三十年間、部屋の絵の中で時間が止まったままだった夏希が、今隣にいて、あの頃と同じようにそこに息をしていた。
手を繋いだまま、しばらくの間黙っていた。川の音がしていた。月が動いていた。三十年前も、こうして二人で黙って月を見ていた夜があった。何も言わなくていい夜が、夏希といるとときどきあった。今夜もそういう夜だった。言葉より静寂の方が、今の二人にはずっと似合っていた。
夏希の手のひらが、少し温かくなってきた気がした。気のせいかもしれない。でも気のせいでもよかった。温かいと感じた、それだけで十分だった。
目の端に涙が滲んできた。三十年間の重さが、じわじわと溢れ出てくるようだった。泣いているのに気づいたのか、夏希が静かにこちらを見た。
「泣くなよお」
あの日と同じように、夏希が僕をからかった。
「泣いてないよ」
思いっ切り泣いているのに、僕はあえてそう答えた。
「そっか。感動して泣いているのかと思ったよ」
「感動はしているよ……月の綺麗さに」
夏希が笑った。僕も笑った。手を繋いだまま、二人で月を見上げた。
空を見上げると月が輝いていた。視線を下ろすと、川面にも同じ月が映って、静かに揺れていた。
今日も月が綺麗だ。でも今は、月より綺麗なものが隣にいる。
リュックの中のロープの重さを意識した。今夜で終わりにする。それだけを決めて家を出てきた。あの場所で最期に月を見てから、と思っていた。それだけが今夜の目的だったはずなのに、あの場所に辿り着けないまま草の上を歩き続けていると、目的よりもあの場所そのものへの焦りの方が強くなっていた。夏希と並んで月を見たあの場所に、もう一度だけ立ちたかった。そう思いながら歩いていると、静寂の中に川のせせらぎと虫の声以外の音が聞こえてきた。
「多分、ここだと思うよ」
忘れるはずのない声だった。僕にこの声を忘れさせようと思ったら、三十年じゃ全然足りない。
声がした方向に顔を向けると、あの場所に夏希が座っていた。笑っていた。一瞬、宙に浮いているように見えたのも、あの時と同じだった。
夏希がいる。
そんな馬鹿な。そんなことがあるはずがない。頭の中で二つの声が同時に鳴った。三十年前と同じだった。幻影を追いかけてあの場所を訪れたあの夜も、きっとあそこにいるという確信と、いるはずがないという冷静な声が同時にあった。でも今夜は違った。確信の方が、はるかに大きかった。
僕が何も言えないでいると、夏希があの日と同じ口調で言った。
「こっちだってば」
三十年も待たせた夏希に文句の一つでも言ってやろうと思いながら、梯子の前に立った。一度だけ立ち止まった。上ったら何もいないかもしれない、という考えが頭をよぎった。でもすぐに消えた。どっちみち今夜で終わりにするつもりだったのだから、上ることを躊躇う理由はどこにもなかった。それよりも、上ることを選ぶ理由の方が、今の僕にははるかに大きかった。
梯子に手をかけた。錆の感触が手のひらに触れた。冷たかった。それでも手に力を込めて、一段一段上った。上るたびに夏希の笑顔が近づいてくる気がして、足に力が入った。最後の一段を踏み越えた瞬間に、夏希の顔がはっきりと見えた。
あの日のままの姿の夏希が、まっすぐ僕を見て笑っていた。
信じられなかった。頭が追いつかなかった。でもそんなことはどうだってよかった。今、目の前に夏希がいる。その現実だけで僕は十分だった。言葉が出てこなかった。体が動くより先に、涙が出てきた。
思わず抱きついて泣いた。三十年ぶりに夏希の胸で泣いていた。十八のときにこの人の胸で泣いた。四十八になった今も、僕はこの人の胸で泣いている。夏希は三十年前と同じように、優しく僕の頭を撫でてくれた。その手のひらの温もりが、三十年間ずっと覚えていたそれと同じで、それだけでまた涙が溢れた。幻じゃない。空耳じゃない。夏希が今ここにいる。その事実を体で確かめるように、僕は夏希にしがみついたまま泣き続けた。
「ごめんね夏樹、ずっと待たしちゃって。でも私、約束守ったでしょ? 生まれ変わって会いに行くって」
あまりにも非現実的なことに直面して、思考が追いつかなかった。でもそんなことはどうだってよかった。夏希の声が、三十年前と変わらずそこにある。それだけが、今の僕のすべてだった。
「実はね、死んだ後に天国か地獄に行くもんだと思ってたんだけど、月に行ったの。でさ、前に月に導かれし王子と王女とか言ってたじゃん? 本当に月に王様がいてさ、そこの息子が私を気に入っちゃって、私と結婚させるって言うの」
「待って」
突拍子もなくて、思わず声が出た。夏希が「何?」という顔でこちらを見た。
「本当の話?」
「どこまでが本当かは秘密」
夏希が笑った。三十年前と変わらない笑い方だった。この笑い方を、僕はずっと覚えていた。部屋の絵の中で笑っている顔と、今目の前で笑っている顔が、寸分違わず重なった。
「それでさ、私ビシッと言ってやったんだよ? 私にとっての月の王子は別にいるって。それでここまで逃げて来ちゃった」
「じゃあ」と僕は言った。
「生まれ変わってここに来たのは、本当?」
夏希が少し間を置いた。月明かりの中でその表情を見ていた。夏希はやがて静かに、でもはっきりと答えた。
「それは本当」
その一言が、三十年分の時間をまるごと貫いた。どんな言葉よりも重く、どんな言葉よりも温かかった。僕はまた泣いた。泣きながら夏希の話を聞いていた。涙が止まらなくて、拭いても拭いても溢れてくる。三十年分の想いが一度に溢れ出てくるようだった。
「夏樹は本当に素直だね」
そんな僕を見て、夏希が優しく微笑んだ。あの頃と何も変わっていない夏希がいた。ずっとずっと会いたくて、求め続けた夏希がいた。あの頃と同じように、泣いている僕を優しく包んでくれていた。
「夏希、会いたかった」
僕はどうにかして声を絞り出した。
「私も会いたかったよ」
夏希が吹き出しながら言葉を返した。お互いが当たり前のことを口に出して確認し合う。お互いがお互いの存在を確かめ合うように。三十年前のこの場所で出逢った二人が、三十年後の同じ場所で、また同じように確かめ合っていた。
少し落ち着いてから、夏希の隣に並んで腰を下ろした。三十年前と同じ場所に、三十年分だけ年を取った僕と、あの日のままの夏希がいる。三十年前と変わらず神々しく輝く月が、川面を幻想的に照らしていた。
「報告していい?」と僕は言った。
「何を?」
「三十年間のこと」
夏希が「うん」と頷いた。その顔が、少し真剣になった。
「施設の伝手で清掃の仕事に就いた。ずっとそこで働いてる。俺の絵、今も部屋に飾ってある。最初は正面に飾ったけど、夜中に目が覚めると絵の中の笑顔と目が合って眠れなくなったから、横の壁に向きを変えた。でも空気で分かるから、それで十分だった。夏希の描いた絵が部屋にあると、部屋の空気が変わる。横になって天井を見ていると、その空気がひりひりと皮膚に触れてくる感じがした。それが辛いときも、有難いときもあった」
「ずっと飾ってくれてたんだ」と夏希が言った。小さな声だった。
「当たり前だろ」
「当たり前じゃないよ」と夏希が言った。「三十年間、ずっとなんて」
夏希が黙った。何かを飲み込もうとしているような沈黙だった。僕はその横顔を見てから、続けた。
「毎年、命日に近い満月の夜にここへ来てた。三十年間、一度も欠かさなかった。五年目はまだ夏希が来るかもしれないと本気で思ってた。十年目は、もう来ないかもしれないと思い始めてたけど認めたくなかった。二十年目は、来ないとわかっていた。それでも来た。なぜ来たのかは分からなかった。でも来てしまう。足が覚えているのか、それとも来ずにはいられない何かが自分の中にあるのか、考えても答えは出なかった」
「知ってる」と夏希が言った。
「知ってるの?」
「月からずっと見てたから」
少し間があってから、僕は言った。
「それ、ちょっと怖い」
夏希が吹き出した。つられて僕も笑った。三十年ぶりに笑った気がした。実際には笑っていたはずなのに、この笑いだけが質が違った。腹の底から、力が抜けるように笑えた。後輩と缶コーヒーを飲んだ夜も笑った。同僚と食事に行った夜も笑った。でもそのどれとも違う笑い方だった。
「あと、職場で後輩の面倒を見るようになった。三十代の頃に、失恋してすごく落ち込んでた後輩がいて。俺、気の利いたことが何も言えなくて、泣いていいよ、とだけ言ったら号泣されて。その後輩がすっきりした顔で『辻村さんって話しやすいですね』って言ってた。そんなことを言われたのは初めてで、どう返していいか分からなかった」
「泣いていいよ、か」と夏希がゆっくり繰り返した。
「夏樹らしい」
「夏希に泣かせてもらった俺は贅沢だったんだなって、そのときやっと思った」
「そりゃそうだよ」と夏希が笑った。
「私の胸は特別だから」
「そうだな」
僕はそう答えて、また泣きそうになった。
「施設の職員に静江さんって人がいたんだけど」と僕は続けた。
「静江さん?」と夏希が聞いた。
「退所の夜に、部屋にプリンを置いていってくれた人。そのときは仕事だからそうしているだけだと思って、ちゃんと受け取れなかった。三十代の後半にスーパーで偶然再会して、そのときに初めてお礼が言えた。今になってやっと、あれが本心だったんだってわかった、って言ったら、静江さんが泣いた。気づくのに二十年近くかかってしまった」
「よかった」と夏希が言った。声が柔らかかった。
「夏希がいなかったら、あの気づきも生まれなかったと思う。誰かの気持ちを受け取ることを、夏希と出逢ってから少しずつ覚えてきた気がする。退所したばかりの頃の俺は、誰かが何かをしてくれても、仕事だからとか義務だからとか、そういう理由に変換しないと受け取れなかった。それが少しずつ変わってきたのは、夏希のおかげだと思う」
夏希は何も言わなかった。でもそばにいる気配が、少し温かくなった気がした。
「浮気はしなかったよ」
「知ってる」と夏希がまた言った。
「また月から見てたの?」
「そう」
「本当に怖い」
今度は二人同時に笑った。
笑い終えた後、少しの間だけ黙っていた。川のせせらぎが聞こえる。虫の声が聞こえる。三十年前と何も変わらない音が、二人の間に満ちていた。
夏希が静かに口を開いた。
「夏樹、今夜ここに来た理由、教えてくれる?」
聞いてくるとは思わなかった。でも隠すつもりはなかった。
「終わりにしようと思って来た」
夏希が黙っていた。川の音だけが続いていた。僕は続けた。
「三十年、待ってた。でも信じ続けることと、信じ続けられることは違った。信じようとすればするほど、夏希の言葉が遠くなっていく感覚が年を重ねるごとに強くなって。手紙を読むたびに泣いたけど、読み終えるたびに、夏希がどんどん遠くなっていく気がした」
夏希はまだ黙っていた。月の方を見ていた。横顔が月明かりに照らされていた。僕はその横顔を見ながら、言葉を続けた。黙っていると泣いてしまいそうで、それよりは話し続けていた方が楽だった。
「ある夜、食卓に座って箸が止まった。三十年間、ずっと一人で食べてきた。夏希が死んでからも、静江さんと再会した後も、後輩と話した夜も、家に帰れば一人だった。夏希と月の下でおにぎりを食べたあの夜だけが、違った。誰かと食べたいと思って食べる食事を、あの夜以来一度もしていないことに、そのとき気づいた。もう十分だ、という気持ちになった」
夏希が静かに息を吸う音がした。川の音だけが続いていた。その沈黙が責めているわけでも、否定しているわけでもないことは分かっていた。夏希はただ、全部聞こうとしていた。あの頃も夏希はこうして、僕が何を言っても途中で遮らずに最後まで聞いていてくれた。
「手紙を取り出して、読んだ。泣いた。夏希の文字は三十年前と変わらなかった。でも読み終えて手紙を畳みながら、あれは三十年前の夏希の言葉だって呟いた。今の夏希はどこにもいないって。声に出したら、涙が出てきた」
夏希がゆっくりとこちらを向いた。
「夏希の嘘つき、って思った?」
月から見ていたのかもしれない。
「思った」と僕は答えた。
「声に出して言った」
夏希が小さく笑った。笑いながら泣いていた。月明かりの中で、夏希の目が光って見えた。
「ごめんね」と夏希が言った。
「本当にごめん」
「謝らなくていい」
「でも」
「来てくれたから。それで十分だ」
夏希の頬を涙が一筋伝っていた。月明かりの中でそれが光って見えた。
「怒らない?」と夏希が聞いた。
「怒ってるよ」と僕は答えた。
「来るのが遅い」
夏希がまた吹き出した。笑いながらまた泣いていた。
「ごめん」と夏希が言った。
「もっと早く来るつもりだったんだけど、月の王子がしつこくて」
「また嘘っぽい言い訳」
「本当のことだって」
夏希が笑いながら言って、僕もまた笑った。笑いながら、胸の奥に積もっていた重いものが、少しずつほぐれていく感じがした。三十年間、ずっとそこにあった重さが、夏希の笑い声で溶けていくようだった。
ふと気づいた。リュックをまだ背負ったままだった。肩から下ろして、自分の膝と夏希の膝の間のコンクリートの上に置いた。ロープの重さが、肩からなくなった。それだけのことが、ひどく軽かった。
「それ、捨てていいよ」と夏希が言った。
「うん」と僕は答えた。
返事をしながら、捨てなくていいかもしれないとも思っていた。もう必要ない、という感覚の方がずっと強かったから。捨てるという行為すら、今夜はどうでもよかった。今の僕には、もう必要のないものだった。
夜が深くなるにつれて、空気が冷えてきた。川面の月が少し揺れていた。風が出てきたのかもしれなかった。
「ねえ夏樹」と夏希が言った。
「夏樹の絵、ちゃんと笑ってた?」
「笑ってた」
「よかった。あのとき、どの表情を描こうかすごく迷ったんだよね。夏樹って色んな顔するから」
「色んな顔?」
「そう。施設を出たばっかりで死にそうな顔もするし、おにぎり食べながら子供みたいな顔もするし、月見て詩人みたいな顔もするし、泣きながら怒った顔もするし」
「それは夏希のせいだ」
「私のせい?」
「夏希がいたから、俺はあんな顔ができた。夏希がいなかったら、あの笑顔は出てこなかった」
夏希が黙った。少し長い沈黙だった。
「じゃあよかった」とやがて夏希が言った。「あの絵、描いてよかった」
「当たり前だろ」
「当たり前じゃないよ」と夏希が言った。声が少し柔らかくなった。
「余命宣告されてから、描くたびに思ってたんだ。この絵は私が死んだ後も残る。だから私が生きた証になる、って。でもさ、夏樹の絵を描き終えたとき、それだけじゃ足りないって初めて思った」
「それだけじゃ足りない?」
「景色を残したいんじゃなくて、夏樹に残したかったんだと思う。あのときはそう言葉にできなかったけど」
その言葉を聞いて、胸が痛くなった。痛くなりながら、温かかった。夏希の絵の中では時間が止まる、と僕が言った夜のことが頭に戻ってきた。だとしたら夏希はここにいる、と部屋の絵を見ながら思ったあの夜のことが。
「ちゃんと届いてたよ」と僕は言った。
「夏希がいない夜に、何度も何度も絵を眺めた。夏希の絵の中では時間が止まってる。だとしたらここに夏希がいる、ってずっと思ってた」
夏希がまた黙った。今度は泣いているのかもしれない。月明かりの中では確かめられなかった。
しばらくして夏希が「あのスケッチブック、お母さんから受け取ってくれてありがとう」と言った。
「最後のページの走り書き、覚えてる?」と僕は聞いた。
「うん」と夏希が答えた。
「あの頃、本当にそう思ってた。描きたいものが多すぎて、時間が全然足りなかった。今も、まだそう思ってる」
「今も描いてるの?」
「また描き始めてる」と夏希が言った。
「月にいた頃は不思議とあまり描けなかったんだけど、戻ってきたらまた描きたくなった」
「何を描いてるの?」
夏希が少し考えてから答えた。
「月。それから、川。それから」と言って夏希が笑った。
「手のかかる男の顔」
「また俺の絵か」
「だって描きたいんだもん。夏樹の顔、三十年分変わってるから。描き直さないと」
その言葉が、不意に胸に刺さった。三十年分変わった俺の顔を、夏希がまた描こうとしている。あの夜々のことを思い出した。月の下で夏希に顔を見られていた夜々のことを。夏希はあのときも、こんなふうに僕の顔を観察していたのかもしれなかった。
「ねえ夏樹」と夏希がまた言った。
「さっきの話だけど、終わりにしようって思ってたって言ってたじゃん」
「うん」
「今も、そう思ってる?」
川のせせらぎが聞こえた。虫の声が聞こえた。月が川面に映って、静かに揺れていた。
「思ってない」
正直に答えた。嘘ではなかった。夏希の声を聞いた瞬間から、そのつもりはなくなっていた。来ないとわかっていても三十年間あの場所に来続けたこと自体が、まだ諦めていなかった証拠だったのかもしれない。
「よかった」と夏希が言った。声が少し震えていた。
「私がいない間、ちゃんと生きてくれてて、よかった」
「手紙に書いてあったから」
「それだけ?」
少し考えてから、答えた。
「それだけじゃない。でも、それが最初だった。夏希の言葉があったから、三十年もった」
夏希はしばらく黙っていた。それから静かに言った。
「ありがとう」
その一言が、三十年分の重さを持っていた。僕はそれを、黙って受け取った。
どのくらいの時間、そうしていたか分からない。月が動いていた。川の音は変わらなかった。空気が少し冷たくなっていたが、夏希が隣にいるだけで、寒くはなかった。
「まだここにいていい?」と夏希が聞いた。
「ずっといていい」と僕は答えた。
夏希がそっと僕の手を取った。少し冷たい夏希の手のひらが、それでも確かにそこにあった。僕は握り返した。離したくなかった。三十年前も、こうして夏希の手のひらの温もりを感じたことがあった。泣いている僕の頭を撫でてくれた、あのときと同じ手のひらだった。少し冷たくて、でも確かにそこにある手のひらだった。
「今度は、どこにも行くなよ」
「うん」
夏希が頷いた。その横顔を見た。月明かりの中に浮かぶ夏希の横顔は、十八のときと変わらなかった。白く透き通った肌と、スッと通った鼻筋と、大きな瞳。三十年間、部屋の絵の中で時間が止まったままだった夏希が、今隣にいて、あの頃と同じようにそこに息をしていた。
手を繋いだまま、しばらくの間黙っていた。川の音がしていた。月が動いていた。三十年前も、こうして二人で黙って月を見ていた夜があった。何も言わなくていい夜が、夏希といるとときどきあった。今夜もそういう夜だった。言葉より静寂の方が、今の二人にはずっと似合っていた。
夏希の手のひらが、少し温かくなってきた気がした。気のせいかもしれない。でも気のせいでもよかった。温かいと感じた、それだけで十分だった。
目の端に涙が滲んできた。三十年間の重さが、じわじわと溢れ出てくるようだった。泣いているのに気づいたのか、夏希が静かにこちらを見た。
「泣くなよお」
あの日と同じように、夏希が僕をからかった。
「泣いてないよ」
思いっ切り泣いているのに、僕はあえてそう答えた。
「そっか。感動して泣いているのかと思ったよ」
「感動はしているよ……月の綺麗さに」
夏希が笑った。僕も笑った。手を繋いだまま、二人で月を見上げた。
空を見上げると月が輝いていた。視線を下ろすと、川面にも同じ月が映って、静かに揺れていた。
今日も月が綺麗だ。でも今は、月より綺麗なものが隣にいる。


