とても綺麗な月を見た時に、僕は君のことを思い出す。
今日で四十八になった。誕生日を祝ってくれる人間は、もうここには誰もいない。それでも構わなかった。長いこと、誕生日というものは自分には関係のない通過点だと思って生きてきた。生まれたことを誰かに喜んでもらえる記憶が、僕にはない。
仕事を終えて部屋に戻り、作業着のまま窓際に立った。夜の街が広がっている。ビルの明かりが点々と灯っていて、人が集まる場所だけが白く滲んで見える。窓の外に月が出ていた。雲一つない夜で、月は白く冴えてビルの隙間から顔を出している。花鳥風月が沁みるぐらいにはおじさんになってしまった、と思いながら、それでも月だけはいつまで見ても飽きなかった。
こういう夜に月を見ると、決まってあの夏のことを思い出す。
三十年前のことを、今でも鮮明に覚えている。あの日、本当に偶然、君と出逢えたことが、僕の人生をとても煌びやかなものに変えてくれた。でも君はもういない。記憶の中の君は、いつまでもあの時のまま、瑞々しい姿をしているのに。
君は今の僕を見て、何て言うだろう。君だけを想い続けて生きてきた、この滑稽な人生を笑い飛ばすだろうか。
生まれ変わって会いに行く、と君は言った。馬鹿げた言葉だとわかっていた。でもその言葉に縋って、僕は三十年を生きてきた。平均寿命から考えれば、これからまだ三十年近く生きていかなければならない。そんな人生に、僕はほとほと疲れてしまった。
リュックを背負って、部屋を出た。
君と出逢った川辺に向かう夜の電車の中で、窓の外を流れる景色を眺めていた。三十年前も同じ電車に乗った。あの頃と違うのは、あの夜は君に出逢うことを知らなかったということだけだ。今夜は、もう誰にも会わないとわかっている。
月が綺麗な夜に、僕の思念はあの日にタイムスリップする。
今日で四十八になった。誕生日を祝ってくれる人間は、もうここには誰もいない。それでも構わなかった。長いこと、誕生日というものは自分には関係のない通過点だと思って生きてきた。生まれたことを誰かに喜んでもらえる記憶が、僕にはない。
仕事を終えて部屋に戻り、作業着のまま窓際に立った。夜の街が広がっている。ビルの明かりが点々と灯っていて、人が集まる場所だけが白く滲んで見える。窓の外に月が出ていた。雲一つない夜で、月は白く冴えてビルの隙間から顔を出している。花鳥風月が沁みるぐらいにはおじさんになってしまった、と思いながら、それでも月だけはいつまで見ても飽きなかった。
こういう夜に月を見ると、決まってあの夏のことを思い出す。
三十年前のことを、今でも鮮明に覚えている。あの日、本当に偶然、君と出逢えたことが、僕の人生をとても煌びやかなものに変えてくれた。でも君はもういない。記憶の中の君は、いつまでもあの時のまま、瑞々しい姿をしているのに。
君は今の僕を見て、何て言うだろう。君だけを想い続けて生きてきた、この滑稽な人生を笑い飛ばすだろうか。
生まれ変わって会いに行く、と君は言った。馬鹿げた言葉だとわかっていた。でもその言葉に縋って、僕は三十年を生きてきた。平均寿命から考えれば、これからまだ三十年近く生きていかなければならない。そんな人生に、僕はほとほと疲れてしまった。
リュックを背負って、部屋を出た。
君と出逢った川辺に向かう夜の電車の中で、窓の外を流れる景色を眺めていた。三十年前も同じ電車に乗った。あの頃と違うのは、あの夜は君に出逢うことを知らなかったということだけだ。今夜は、もう誰にも会わないとわかっている。
月が綺麗な夜に、僕の思念はあの日にタイムスリップする。


