星を拾う指先が、温かくなるまで

 目的の誰かも、誰もそこには居なく、絶望の瞳で何もない世界を見つめていた。

 僕にはわかった。風になり空に浮かぶ理由も。
 少女を同じ風にさせないよう、引き止めに来たのだと。

 僕は少女を抱きしめると、真っ逆さまに堕ちていく。

 吹き荒れる風の刃が少女を傷つけないよう、僕は己のすべてを凝縮させ、彼女を包み込む
 「空気の繭(まゆ)」となった。

 かつて僕を地面へと叩きつけた冷酷な重力を、今度は僕自身の風圧で押し返す。
 落下する凄まじい風圧と摩擦の中、僕の輪郭が溶け、意識は白く弾けそうになる。

 けれど、腕の中に感じる少女の、小さく確かな心臓の鼓動だけが、僕をこの世に繋ぎ止めていた。
 その間。少女の声が聞こえたような気がした。

「お母さん。お母さん。もうどこにもいないの?」

 僕は少女に今いっぱいの、言葉を投げかける。

「変わらない。風になっても何も変わらないんだ。だったらこのまま、小さな希望の星を見つけようよ」

 必死な叫びが熱となり、少女を包む空気の層を震わせた。

 その熱に触れた瞬間、彼女が抱えていた黒い薔薇は、凍えきった黒を脱ぎ捨て、鮮やかな「赤」へと染まりかわる。

 地面が迫る直前、僕は最後の力を振り絞り、彼女をふわりと押し上げた。