星を拾う指先が、温かくなるまで

 風にならなくても、逃げる道はいくらでもあったはずなのに。
 吹き抜ける僕は、ただ退屈で、寒くて、どうしようもなく情けなかった。 

 少女の元に辿り着くと、家の前に置かれた山積みの黒い薔薇の前にいた。
 僕には聞こえない声で、空に向かい話しかけている。

 不思議なことに薔薇は動き出し、空に続く階段へと姿を変えていく。
 少女は戸惑いながら、ゆっくり階段に足をかけた。

 少女がその階段を登り始めると、僕はたまらなく不安になっていた。
 理由はわからないが、この先には行ってはならないと、心が泣いていたからだ。

「どこに行くんだい。だめだよ登っちゃ」

 僕は少女の行く手を阻もうと、狂ったように吹き荒れた。
 けれど、彼女のショールを揺らすことしかできない。

 僕の声はただ、空しい風の音として夜空に霧散していった
 踏みしめた薔薇の階段は、背後から音もなく崩れ落ち、また彼女の先に新たな螺旋を描いていく。

 立ち止まれば闇に呑まれる、危うい光の道だった
 下を振り返ると、家は遠く離れていた。

 初めてみせた、光ある瞳。白く凍る、けれど熱い吐息を切らせ、止まる足を更にもう一歩と、進め登り続けている。

 少女はその先にたどり着くと、辺りを見渡し誰かを探していた。