婚約者を完全論破して黙らせてしまう令嬢

「スカーレットもう私は我慢ならないぞ、お前は偉大なるこの公爵家の長男である、フィリップ様への絶対的な敬意が無い。お前まさか僕の妻になるから、対等とかはき違えているのか?勘違いするな!お前は所詮は伯爵家の小娘なんだ!」


「……一応念のため言っておきますが、敬意はあったつもりですが、このように常に丁寧に話していたではありませんか……」



 ……私だって分かっている、お父様の伯爵と、公爵様が仲がいいからこそ発生した縁談であったとしても、伯爵家の娘であるこの私が、公爵令息であるフィリップ様に、イキろうなんて思う気持ちなど無い。



 だがそれを超えて、まるで宗教の神のように敬え見たいな風だから、そこまではする義理が無いってだけなのである。




「見たか皆の者!夫になる公爵令息である私を敬わずに、今みたいな口答えをするから問題だと私は言っているのだ!」



 ……社交の場でこんなことを言いだすほうが問題だと思いますが、公爵令息相手なので、誰も文句は言えずに、黙っているだけですね。

 それだけに過ぎないのに、何故そこまで自分が神の公理かのような表現になるのか、不思議でならない……




「それでは私は何でもおっしゃる通りですって言うだけの人形であれと仰るのですか?」




「そういうことは今みたいな口答えをしない人間だけが言う権利があるのだ!」




 ……口答えをしないのであれば、そもそも言わないのだから権利もクソも無いんですけど、この人の頭はおかしいのだろうか?



 馬鹿だと正直思っていましたが、ここまで馬鹿とは思わなかった……



 ただし面倒なのが、ここで今みたいな正論を言うと、


「ほら見たことか、やはりお前は僕を敬っていないんだ!」


 などと戯言を言うという点である……



 見下げ果てた男である……



 ……すると私の幼馴染であるトーマスが遠目で怒ってそうなのが見えた……


 うん……ぶっちゃけトーマスが私のことを好きなのは知ってたし、私も叶うのならばトーマスが婚約者なら良かったんだけどなぁ……


 いや超素敵で惚れまくりとかはないんだけど、結婚するのならこれほど付き合いやすい人っていないから……




 でもここでトーマスが何か勘違いをして激怒したら、彼の家も困るだろうから、私で何とかするしか無いですね!





「その敬い、私は自分が伯爵家の娘であり、フィリップ様が公爵家の公爵令息という距離感覚の敬い、つまり相対的な感覚でならば、私もしているつもりで、そこに失礼があったのだとしたら謝罪もしましょう!」



「しかし、その距離感を超えて、まるで常に絶対服従、もしくはフィリップ様は神のように常に正しいとすることはできません!」



「私達貴族にとって、仮に現実的にそのような絶対をしていい相手は陛下や王太子様以外ありえずに、フィリップ様《《ごとき》》をそうしてしまうのは、もっと偉い王家への不敬になるからです!」



 イライラしたのもあって、ごときと言ってしまったが、実際に陛下や王太子様よりも偉いなどとこいつは勘違いしているのだろうか?

 だとしたら私は誇り高き貴族として、そんな逆賊につくわけがない!


 ……貴族として言ったらなんだが裏作法として、フィリップ様のほうが陛下達よりも王に相応しいと思うのであれば、貴族は裏切りますが、こんな馬鹿を王なんて思うわけが無い(笑)




「何だとフィリップ様ごときだと!?貴様、みんな聞いたか?このように日頃からこの女は、この私を敬う気が無いのだ!まして私を見下したのだ!許すことができないのは分かったであろう!」




 ……なんでこいつは常に自分が偉いとされないと気が済まないんですかね。


 陛下や王太子様よりも偉いと仰るのなら、どうぞ謀反でも起こしてくださいな。私は絶対に巻き込まれたくないですし、伯爵家は当然、その謀反を起こしたフィリップ様討伐に加わりますけどね!




「……今私が言ったことは陛下や王太子様という貴族からしたら《《絶対に》》等しい存在と比較したことを言ったのですが、フィリップ様はまさか陛下達王族に敬意を示さなくて良いと仰るのですか?」




「黙れ黙れ黙れ!お前ごときがこの私を見下した、これが死刑なんだ!」




 ……話にならないお前ごときがそんな絶対性を持てる道理が無いってこっちは言ってるんだ。

 お前の限界は、私よりも相対的に少し偉いってだけだ、それが公爵家と伯爵家の違いでしょうが!

 甘ったれにもほどがある。


 婚約破棄はしたいが、こんなボケに屈することはあってならない!



 私がイライラしてもっと言ってやろうとしたが、水掛け論になるからアホらしいと思ったが、ここで救済が現れた!




「スカーレットが言うことのほうが正しいでは無いか!」



 王太子様その人である。王太子様ともなると貴族ごときのパーティーに全部付き合うなどなく、最初か最後だけ姿を現すことも多いのだが、今回は最後だったようだ……



「王太子様!?何を仰るのです、スカーレットはたかが伯爵家の小娘ですよ?私はそれに比べたら、公爵家の跡継ぎ!王家の決めた身分に逆らった国賊ですので、私がそれを怒っていた忠臣でございます!」




「違いますわ!フィリップ様の仰ることは、いかなる時であっても、自分を崇めろという主張!ならばフィリップ様が王太子様と対立した時ですら、フィリップ様を崇めろというも同義!貴族として、そんな不忠には当然従えないと言っただけに過ぎませんわ!」



「黙れ黙れ黙れ黙れ!今だってこのように貴様は身分の差を弁えない無礼をしているでは無いか!」



「違いますね、その辺りフィリップ様が単純に考えているに過ぎませんわ、私は今《《たかが》》伯爵家の小娘ですから、フィリップ様と敬い、さらにこのような聞くに堪えない戯言を言われても、怒りもせずに付き合っている時点で、身分の弁えを完了していますわ、さらに身分の弁えで言うのならば、王太子様や陛下の前では、貴族など弁えて当然!それを超えた敬いを求めるフィリップ様こそ、不忠のものなのです!」



「スカーレットが正しいでは無いか、フィリップよ、そちと私とどっちが偉いのだ?」



「も……もちろん王太子様であります!」



「ならばスカーレットの立場からしたら、お前を絶対的に偉いと敬ったら、私をどれだけ敬えばいいんだ?」



「もっと敬えばいいのです!」




「だがお前の言ってることは、絶対にお前を敬愛しろと言っているではないか、それ以上などこの世に無いぞ?」



「……ならば私も王太子様も同じように敬愛すればいいのです!何故なら私も王太子様も、スカーレットよりも偉いことは同じですから!」




 こいつ墓穴を掘ったなって思った、馬鹿確定!


 すかさず私は言ってやって論破完了ですわ!




「私よりもお二人が偉いのは当然ですが、私からしたら王太子様のほうが明らかに偉い!王家ですから当然ですからね!さらに王家は……いやフィリップ様に言っても分からないからやめておきましょう!とにかく、もっと偉い方には当然差をつけないといけないので、フィリップ様程度を最上級に敬うことはできませんわ。それでも敬えというのなら、自分が王族に等しいという国賊じゃないかしら。そんなのに私付き合ってられませんわ!」



「貴様!またしても程度とか侮辱しおったな!王太子様、こんな無礼者捕まえるべきです!」



「無礼者はお前だ!いつから貴様と私が並ぶ立場になったか!」



 ……当たり前の理屈である、このボケは王太子様と同じ扱いをしろって言ったことがどれほど地雷か見えなかったのか……




「しかし……」



「何だ?お前の理屈を借りるのならば、偉いものが言うことは正しいのだろう?ならば何故この私に服従できないのだ?」



「そんな!横暴であります!」



「それをスカーレットに求めていたのはお前だろうがこのうつけ者が!」



「だってスカーレットは身分が低いものですよ?公爵家の跡継ぎであるこの私の威厳や権威から当然であります!」



「……頭の悪い奴め、ならば偉大なる王家の王太子であるこの私には貴様はお前の理屈から言えば絶対服従すべきだろうが!」



「……でもスカーレットは……」




「黙れ!貴様は余に逆らう逆賊ということだな?いいだろう、今すぐに公爵家に帰って戦争の準備を整えてこい!余が直々に相手をしてやるわ!訓練の成果を出す機会だ楽しみにしておるぞ!」



 ……ああ……王太子様を完全に怒らせてる、こんなの絶対降伏しなきゃマジで殺されますわよ……





「ど……どうかお許し下さい、私は愚かな公爵家の跡継ぎです」




「ほーうまだプライドを持ちたいのか?」



「失礼しました、私はウンチ以下のゴミです」



「それでいいのだ、二度と寝言を申すで無いぞ!」



「ははー」



 こうして前代未聞の大恥をかいたフィリップ様、いやもう呼び捨てでもいいですね、きっと公爵家でも追放か隠居になるでしょうから。


 フィリップはパーティーから追い出された……



 フィリップ様、そこで王太子様に戦争を挑めるくらいの気概があるのでしたら、

 本当イキれる権利があったかもしれませんが、貴方程度では無理な時点で、だからこそ、私も従ってくれなかっただけなんですよ……


 弁えて下さいな。


 それに比べて、さすがは王太子様だな、王者の論理の方である!と、改めて忠誠を尽くす対象が王家にあると思っていたら、とんでもないことを王太子様が言い出すでは無いか!




「スカーレットよ、そちも婚約者を失ってつまらないだろう。それに馬鹿女と違ってそちは弁えている女だからこそ、私の妻にならぬか?」



 ええ……


 ちょっとちょっとお待ちください!


 私は王家の女になるほどの力も無いので何とかして断らないと!



「お……王太子様!どうかどうかお許しください、たかが伯爵家の雑魚な小娘に、将来の王妃など務まりません!どうか小心者の小物に、ささやかな生活を送ることをお許しくださいませ!」



 私がそんな全力の謝罪をすると……



「そういう客観性がいいと思ったのだが、本人にやる気がないのなら仕方ない、忘れてくれ!」


 このように言って去って行くので、安心をしたけど、どうか王太子様、私程度では無く、もっと素敵な女性をお見つけ下さい。釣り合う方がいらっしゃることを、臣として願いますわ……


 後は私はトーマスさえ私を口説いてくれればそれでいいの。


 違う家の伯爵家のトーマスだから身分的にも釣り合うし、さらに幼馴染で私に惚れている、これほど将来困らない結婚相手ってそうはいないのでは?

 トーマスのことなら、私もよく知っていますからね!


 やはり結婚相手はそういう方が一番なのよ!