「・・・・傷・・」

声になるかならないかぐらいの声で聞き返した。


「へ?」


「杏の傷が好き。」

豊のその一言は、私の体の中に衝撃を走らせた。


泣きそうな私を無視して豊は続けた。


「杏の、後ろ腿にある傷・・・。あれが愛おしくてたまらない。」

豊も泣きそうになっていた。

今豊が言っている言葉はしっかりと私の耳に届いているのに、それはどこか遠くから聞こえるような、もしくは空耳の様な、不思議な感覚だった。


私は大声を上げて泣いていた。

子供みたいに。

失恋した時と一緒だ。

マスカラが目の周りを真っ黒にし、上下に動く肩を必死に止めようとしたけど、できなかった。

代わりに豊かが私を優しく包んでくれた。