鋭い光が私の目の前を過ぎ去った。
赤色の花びらが滲むように散って、何があったか、すぐにわかった。
私にその花びらが張り付くことはなかった。だって、あまりたくさんは散らなかったから。
「何だよ、誰だよ…お前…」
湊の声ではっと我に返る。そして、赤く染まった彼女の左手が見えた。絶対に離しはしないと叫ばんばかりに強く銀色の刃をつかんでいる。
「名前も名乗らずに人を刺そうとすんな…」
手が震えている。出血が多すぎる。
「うるせぇ!」
刃物を突き出した少年が湊を突き飛ばす。そんなとき、理由もわからない怒りに襲われる。これは正義感?そんなのは嫌だ。だって、正義感って、偽善とか、上から目線とかみたい。
尻もちをついた湊は、まだ諦めていないようだった。怪我をしていない方の手で彼の首根っこをつかんで引きずった。
「やめろ」
凛としていてハスキーで、透明感があって、女子とは思えないほどに中性的な声。この声を聴くと、いつもぼうっとする。私は湊のこの声が大好きだった。
だから。
思い切り少年を蹴飛ばした。子供に暴力を振るったのは初めてだった。小さな黒い体は案外簡単に吹き飛んでいった。そのカタマリから「ひっ」という小さな弱弱しい声が聞こえて。
「奏子⁉」
その声で我に返った。
私は最低だ。怒りを少年に対して八つ当たりしたみたいになってる。
苦しい。怖い。
嫌われたらどうすればいい?
人を蹴飛ばしたことで嫌われたら。
みんなに好かれていることで、みんなに愛されていることで、どうにかして寂しさを抑えてきたっていうのに。
「かな…こ…?どうし…たの…」
湊の声がうっすら聞こえる。さっきはきれいに聞こえていた声も頭の中のノイズでかき消された。
私はうそつきだった。
私は悪い子だった。
「おかあさんとおとうさんはいつ帰ってくるの」と私に聞いてきた女の子に「いい子だったら帰ってくるよ」と言っていしまった。帰ってくるはずがないことなんて、この目で見たのに。
今日だって湊を無理やり外に連れてこなければ、こんなことにならなかったかもしれないのに。
取り立てられるような能力もないし、喜ばれるようなことはいつも笑顔でニコニコしているだけ。
最大限の本物の笑顔。
幼馴染じゃない限りわからない。
湊は作り笑顔を見抜いているのかな?って思うと、辛くなってくる。
見抜いていないことを祈る。作り笑顔をしてるなんて気づかれちゃったら、私はどうすればいい?
いや、わかるはずないのだ。
だって私と彼女は幼馴染なんかじゃないから。
泣きたくなってくる。
整理して考えると、湊が少年のナイフの切っ先をつかんだことが原因なのだ。
だったら今こんな苦しい思いしていない!
「湊のバカァー!バカバカバカ!」
本能的に駆け出した。不思議と涙はあふれなかった。その代わりに、その倍の量苦しかった。
気づいたら河川敷についていた。
座り込んだ途端、ぼろぼろと涙が出てきた。なんだかフワフワした感覚で、不思議と苦しみはなかった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
気づいたら叫んで泣いていたんだ。泣けば楽になるって本当だ。
きっとこの後、色んな人たちが泣いている私に対して心配して、駆け寄ってくる。
そんなの嫌だ。
心配されたくなんかない。
でも。
この、泣くことで楽になるという甘美な葛藤を、手放せなかった。
赤色の花びらが滲むように散って、何があったか、すぐにわかった。
私にその花びらが張り付くことはなかった。だって、あまりたくさんは散らなかったから。
「何だよ、誰だよ…お前…」
湊の声ではっと我に返る。そして、赤く染まった彼女の左手が見えた。絶対に離しはしないと叫ばんばかりに強く銀色の刃をつかんでいる。
「名前も名乗らずに人を刺そうとすんな…」
手が震えている。出血が多すぎる。
「うるせぇ!」
刃物を突き出した少年が湊を突き飛ばす。そんなとき、理由もわからない怒りに襲われる。これは正義感?そんなのは嫌だ。だって、正義感って、偽善とか、上から目線とかみたい。
尻もちをついた湊は、まだ諦めていないようだった。怪我をしていない方の手で彼の首根っこをつかんで引きずった。
「やめろ」
凛としていてハスキーで、透明感があって、女子とは思えないほどに中性的な声。この声を聴くと、いつもぼうっとする。私は湊のこの声が大好きだった。
だから。
思い切り少年を蹴飛ばした。子供に暴力を振るったのは初めてだった。小さな黒い体は案外簡単に吹き飛んでいった。そのカタマリから「ひっ」という小さな弱弱しい声が聞こえて。
「奏子⁉」
その声で我に返った。
私は最低だ。怒りを少年に対して八つ当たりしたみたいになってる。
苦しい。怖い。
嫌われたらどうすればいい?
人を蹴飛ばしたことで嫌われたら。
みんなに好かれていることで、みんなに愛されていることで、どうにかして寂しさを抑えてきたっていうのに。
「かな…こ…?どうし…たの…」
湊の声がうっすら聞こえる。さっきはきれいに聞こえていた声も頭の中のノイズでかき消された。
私はうそつきだった。
私は悪い子だった。
「おかあさんとおとうさんはいつ帰ってくるの」と私に聞いてきた女の子に「いい子だったら帰ってくるよ」と言っていしまった。帰ってくるはずがないことなんて、この目で見たのに。
今日だって湊を無理やり外に連れてこなければ、こんなことにならなかったかもしれないのに。
取り立てられるような能力もないし、喜ばれるようなことはいつも笑顔でニコニコしているだけ。
最大限の本物の笑顔。
幼馴染じゃない限りわからない。
湊は作り笑顔を見抜いているのかな?って思うと、辛くなってくる。
見抜いていないことを祈る。作り笑顔をしてるなんて気づかれちゃったら、私はどうすればいい?
いや、わかるはずないのだ。
だって私と彼女は幼馴染なんかじゃないから。
泣きたくなってくる。
整理して考えると、湊が少年のナイフの切っ先をつかんだことが原因なのだ。
だったら今こんな苦しい思いしていない!
「湊のバカァー!バカバカバカ!」
本能的に駆け出した。不思議と涙はあふれなかった。その代わりに、その倍の量苦しかった。
気づいたら河川敷についていた。
座り込んだ途端、ぼろぼろと涙が出てきた。なんだかフワフワした感覚で、不思議と苦しみはなかった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
気づいたら叫んで泣いていたんだ。泣けば楽になるって本当だ。
きっとこの後、色んな人たちが泣いている私に対して心配して、駆け寄ってくる。
そんなの嫌だ。
心配されたくなんかない。
でも。
この、泣くことで楽になるという甘美な葛藤を、手放せなかった。
