冷酷公爵様の「重すぎる愛」をすべて変顔で無効化してたら、なぜか夫婦漫才の相方に指名されました』

私、真白(ましろ)。高校2年生。
自分で言うのもなんだが、私の顔面は「奇跡の造形」だ。廊下を歩けばモーゼの十戒のごとく道が開け、微笑めば道ゆく男子が石化する。
でも、私には親友のあかりしか知らない「裏の顔」がある。
(……ああ、ダメだ。今、この静寂をブチ抜きたい……っ!)
放課後の誰もいない教室。掃除当番の私とあかり。
夕日が差し込み、埃がキラキラ舞うエモーショナルな光景。あかりが真面目に机を拭いている背中を見て、私の「芸人魂」がうずき出した。
「ねえ、真白。……あんた、また変なこと考えてるでしょ」
「えっ、バレた?」
「顔が『大喜利のお題待ち』になってるもん。やめなさいよ、その顔面で」
あかりの制止も聞かず、私はおもむろに自分の鼻の頭を指差した。
そして、シュバッ!と短い舌を伸ばし、ピチャッ……と鼻の頭にくっつけた。
「……ねえ、あかり。今の私の鼻、いちごの香りがするんだけど……一口、いく?」
「………………は?」
あかりの手が止まった。
白目を剥き、鼻に舌をつけたまま、上目遣いで「いちご」をアピールする私。
「食えるかボケぇ!!」
パコーン!と、あかりの持っていた雑巾(絞りたて)が私の顔面にヒットする。
「っふぅ……。今のツッコミ、80点。もうちょっと腰を入れて振り抜けば満点だったよ」
「何が採点よ! あんた、さっき中庭でイケメンの先輩に告白されてたでしょ! あの時の清楚な真白はどこに行ったのよ!」
そうなのだ。さっきまで、私は「高嶺の花」として、先輩の熱い告白を「ごめんなさい、今は勉強が……」と、儚げな表情で断ってきたばかり。
「あー、あの先輩ね。告白のセリフが『君を一生守りたい』だったから、思わず『ガードレールかよ』ってツッコミそうになって危なかったわ」
「ツッコまなくて正解だよ! 自分の立場を考えなさい!」
私たちはギャハギャハと笑いながら、誰もいない廊下を駆けていく。
美少女という皮を被り、放課後だけ本性を現すこの時間が、私にとって最高のデトックスだった。
(あー、面白い。……くっ、今の自分のボケ、自分でもちょっとツボだわ……!)
思い出し笑いで「フヒヒッw」と肩を揺らした、その瞬間。
ワックスがけ直後の廊下で、私は「自前で仕込んでいたバナナの皮」をうっかり自分で踏んでしまい、かつてないほど綺麗な放物線を描いて宙を舞った。
「(……あ、これ、着地の顔……『ひょっとこ』で行こう……!)」
それが、現世での私の最後の思考。
笑いにストイックすぎた美少女の、あまりにマヌケな幕切れだった。