また会う口実で、お試しカップルはじめました。

3月中旬のとある休日。

待ち合わせのカフェ前。

「……」

スマホを見ながら待っていると。

「ごめん、待った?」

顔を上げた瞬間、少し固まった。

髪をセットして、前髪が上がっている。

この前の人とは思えない。

「……」

「?」

「え、あの…ネイルサロンの…」

「そう」

軽く笑う。

「前髪ないと別人?」

「いや…」

ーーイケメンすぎて言葉が出ない!!!!!ーー







おすすめだと言ってくれた、セルフネイルのグッズ屋さんに入る。
隣で笑う彼は、私の戸惑いなんて全く知らず、すごく楽しそう。

ーーほんとにネイル、好きなんだなーー


「あの、オフなのにすみません」

歩きながらそう言うと彼は肩をすくめた。

「別にいいよ」

「これも仕事の延長みたいなもんだし」

「……」

少しだけ胸が下がる。

でも。

「まあ」

「リフレッシュにもなるし」

「え?」

「こうやって会うの」

一瞬だけ目が合う。
私は身長が170もあるけれど、彼が高いからかなんとなく女の子の気分になる。いけない、ただのこの前担当してくれたスタッフさんなのに。


若葉は避けるように目を逸らす。
、、、、、。
ーー俺は何してんだろ。ーー
少し胸がしまる感覚がして、彼女を見つめた彼も戸惑う。





お店を回り終わったあと、何かお礼がしたくて若葉はカフェにでも入りませんか?と声をかけた。
担当の彼は、峰橋さんは、快くOKしてくれた。

暖かそうなコーヒー。両手で抱えるその姿はなんかギャップを感じさせた。
正直、お仕事の時は前髪長くてパッとしなかったけど、オフのこの人はイケイケだ。男らしく堂々として見える見た目。
そんなんでネイリストだとか、コーヒー両手で持っちゃうあたり、よく分かってると思う。



「一個聞いていい?」

「はい」

「これ」

少し身を乗り出してくる。

「オフってことで認識してもらってもいいかな?」

「……」

「店じゃないし」

「うん」

「普通に、俺と会ってるってことで」

心臓が少し速くなる。

「はい」



会話は思ったより自然だった。

「大4てことは22歳?」

「はい」

「どこの大学?」

「早米です」

「え、まじ?」

彼が笑う。自分を指さして

「俺、京応だった」

「え?」

「三つ上。だから今は25。」

「そうなんですか!」

早米と京応は共に、私立大学の最高峰で知られている。ネイリストの彼はてっきり専門学校なのかと思ってたのに、そんなインテリだったなんて。

、、、まてよ?けど、京応?
京応てチャラくない???
この前、京応の男と悪い思い出を作ってしまった若葉は、とたんに考えを巡らせる。
もしかしてこういうこと沢山してるのかな。ネイリストとして知り合った女の子と休日沢山遊んでるとか??
一気に不信感も増す。

なんでネイリストになったんだろうという好奇心と、この人チャラいのかなという不信感から、どんな学生だったか知りたくなった。
そんな私を置いておいて、彼は質問攻めにしてくる。

「じゃあさ、出身は?」

「青森」

「仙台」

思わず笑う。

「近いですね」

「だな」

「兄弟とかいるの?」

「あ、弟が1人いますけど。峰橋さんは?」

「俺は兄がいる。あ、あと、俺、峰橋煖(みねはし だん)て言うんだよね。まだ下の名前知らなかったよね?」

「そうなんだ、珍しいけどかっこいい名前ですね!」

「若葉ちゃんは、彼氏いる?」

「いないです〜」



少し沈黙。
あ、何気なーく言った「かっこいい」、よくなかったかな?なんか気まずい時間。。。

ん?てか、彼氏いるとかなんで聞いたんだろ。

そして、さっきまでにこやかに堂々と質問してきてた彼が、少しだけ真顔になった。

「よかった」

「え?」

「じゃあ」

少し笑う。

「俺頑張っちゃっていい?」

「……え?」

「頑張るね」

突然すぎて言葉が出ない。





「正直さ」

彼が少し真面目な顔になる。

「いいなって思ったんだよ」

「でも店で会ったから」

「連絡先聞けないし」

「だから公式インスタ」

「……」

「でも、会わないと始まんないじゃん」

「だから急いだ」

私はまたふと思ってしまう。

「他の人にも声かけてたり…」

すると彼はスマホを出した。

「ほら」

DM画面を見せる。

「……」

「ないでしょ」

「でも非表示にしてるかも」

その瞬間、少しだけ眉が寄る。

「それならそれでさ」

声が少し低くなる。

「非表示にしたら俺から連絡できねえじゃん」

「……」

「お前が特別なんじゃねえの?」

一瞬、ドキッとした。
ご、強引だけど、確かに言う通り。




少しして、彼が言う。

「俺さ」

「サロンではずっと顔隠してんの」

「俺の雰囲気とかより実力でお客さん増やしたいから」

「でも」

「正直、顔見えないと」

「客ってあんま優しくないんだよ」

「……」

「でもお前」

「雰囲気違った」

「それに」

少し笑う。

「その年でネイルしたことないのも」

「なんかいいなって思った」



私は正直に言う。

「私も」

「?」

「ちょっとだけ期待してDM送りました」

すると彼が少し驚いた顔をする。

そして。

笑う。

「じゃあさ」

「うん」

「付き合う?」

「……え?」

「試しにでも」

私は固まる。

すると彼が続ける。

「体の関係とかなし」

「キスもなし」

「手つなぐくらい」

「……」

「でも付き合うって形の方が」

「一番わかりやすいと思うよ俺の事どう思うか」

静かに言う。


少し考えて、私は小さく言った。

「……はい」

彼が笑う。

「よし」

そして。

自然に手を差し出す。

「じゃあ」

「今日から彼女な」

私はその手を取るか迷った。
恐ろしく手汗かいてたから。
すると見透かした彼がニッと笑って、手を強く掴む。

あれ、なんだか私1人の手汗だけじゃないみたい。


卒業式も間近に迫った3月のこの時期に、私の運命は始まろうとしていた。