手の届かないあなたと

E p i s o d e 7

教室を出て、廊下を歩く。
しばらくしてから、歌那汰がふっと笑った。

「凛、さっきの子」

凛は少し面倒くさそうに言う。

「なに」

歌那汰はにやっとする。

「誰?」

湊音も横で笑っている。

「同じクラス?」

凛は短く答える。

「……そう」

歌那汰は肩をすくめる。

「へぇ珍しいじゃん凛が女子と普通に話してるの」

凛はため息をつく。

「普通に話してただけ」

湊音が言う。

「いやそれが珍しいんだって」

歌那汰が続ける。

「しかもさ消しゴム拾ってあげてたよな?」

凛は少しだけ黙る。

「……落としたから」

歌那汰は笑う。

「優しいじゃん凛くん」

凛は少し眉をひそめる。

「からかうために呼んだ?」

湊音が笑う。

「違う違う」

「ちゃんと用事ある」

歌那汰は凛の肩を軽く叩いた。

「でもまぁ今年のクラス楽しそうじゃん」

凛は何も言わずに歩き出す。
その後ろ姿を見ながら、湊音が小さく笑った。

「絶対気にしてるな」

歌那汰もうなずく。

「だな」

「そういえばさ今日配信だろ?」

歌那汰が笑う。

「あー、言ってたな」

凛は軽くうなずく。

「うん」

湊音が続ける。

「何やるの?」

凛は少し考えてから答える。

「ゲームと雑談」

歌那汰が言う。

「またコメントすごそうだな」

湊音も笑う。

「最近増えてるもんな」

凛は少し肩をすくめる。

「まぁありがたいけど」

歌那汰がふっと言う。

「でも学校だと普通の高校生だな」

湊音も笑った。

「それな配信のときと全然違う」

凛は少しだけ笑う。

「それがいいんだよ」

湊音が言う。

「まぁ確かに」

「バレたら面倒だしな」

歌那汰も肩をすくめた。

「学校は平和にいこうぜ」

「配信何時?」

「九時」

歌那汰が少し考える。

「じゃあその前に飯だな」

湊音もうなずく。

「だな」

「どうする?」

凛は少し考える。

「適当にどっか行く?」

歌那汰が言う。

「ラーメン?」

湊音が笑う。

「お前いつもそれじゃん」

「いいだろ」

凛が少し笑う。

「別にいいよ味噌ラーメン食いてえな」

湊音が言う。

「じゃあ決まりだな」

「配信前ラーメン」

歌那汰が肩をすくめる。

「太るぞ」

凛は少しだけ笑った。

「別にいい」

三人は学校の近くのラーメン屋に入った。
カウンター席に並んで座る。
しばらくして、ラーメンが運ばれてきた。

「腹減った」

歌那汰が笑う。

「お前いつも言ってるな」

凛は静かにラーメンをすすった。

「うまい」

湊音も食べながら言う。

「そういえばさ学校にファンいたらどうする?」

凛は少し考える。

「どうもしない」

湊音が笑う。

「バレない自信あるの?」

凛はラーメンをすすりながら言った。

「ある」

湊音が少し笑う。

「自信あるんだ」

歌那汰が箸を止める。

「まぁ凛、学校じゃ全然喋らないしな」

湊音もうなずく。

「それな」

「配信のときと別人だろ」

凛は少し肩をすくめる。

「別人じゃない声変えてるだけ」

歌那汰が笑う。

「それを別人って言うんだよ」

湊音が言う。

「でも今日配信で何話すんだ?」

凛は少し考える。

「普通に雑談学校の話とか」

歌那汰がすぐ反応する。

「学校の話すんの?」

凛はうなずく。

「別に名前出さなきゃいいし」

湊音が少し笑う。

「それでさ今日のクラスどうだった?」

凛は少しラーメンを食べてから言った。

「普通」

歌那汰がにやっとする。

「普通ねぇ」

湊音も笑う。

「さっきの子いたじゃん」

凛は少しだけ黙る。

「隣の席の子」

「佐々木」

湊音がすぐに笑う。

「ほらやっぱ覚えてるじゃん」

凛はラーメンをすすりながら言う。

「隣だから」

歌那汰がにやっとする。

「それだけ?消しゴム拾ってあげてたよな」

凛は少しだけ眉をひそめる。

「落としたから」

湊音が言う。

「優しいじゃん」

歌那汰も笑う。

「しかも名前聞いてたし」

凛は少し面倒くさそうに言う。

「隣だから聞いただけ」

湊音が箸を置く。

「でもさ結構かわいかったよな」

凛は少しだけ手を止める。
歌那汰がすぐ言う。

「それな大人しそうだったけど」

湊音が笑う。

「凛のタイプじゃね?」

凛はすぐに言った。

「違う」

歌那汰がさらに笑う。

「否定はや」

湊音も笑っている。

「絶対ちょっと気にしてるだろ」

凛はラーメンを食べながら言った。

「してない」

でも二人はまだにやにやしていた。
ラーメンを食べ終わると、三人は店を出た。
外はもう少し暗くなり始めている。
歌那汰が伸びをする。

「食ったー」

湊音も言う。

「腹いっぱい」

凛はスマホで時間を確認する。

「そろそろ帰る」

湊音が言う。

「配信だろ?」

「うん」

歌那汰が笑う。

「頑張れよ、人気者」

凛は少しだけ笑う。

「うるさい」

湊音が言う。

「じゃあまた明日な」

三人はそこで別れた。凛は家に帰る。
部屋に入ると、机の上のパソコンをつけた。
マイクを準備する。ヘッドホンをつける。
画面には配信画面が映る。
凛は少しだけ息を吐いた。

「……よし」

そして配信ボタンを押す。

数秒後。
コメントが流れ始めた。凛はマイクに向かって言う。

💙「どうも、Aquaです」