手の届かないあなたと

E p i s o d e 6

授業が終わるチャイムが鳴った。

「はい、今日はここまで」

先生が教室を出ていく。

クラスが一気にざわざわし始めた。

私はノートを鞄にしまう。

すると、隣から声がした。

「ね」

私はびっくりして横を見る。

凛。

「……え?」

凛は少しだけ首をかしげる。

「名前なんだっけ」

「えっ」

私は少し慌てる。

「あ……」

「佐々木……です」

「佐々木?」

「うん」

私は小さくうなずく。

凛は少し考えるように言った。

「下の名前は?」

「……愛桜」

「愛桜」

凛はその名前を小さく繰り返した。

そして少し笑う。

「へぇ」

「かわいい名前」

「っ……!」

私は一瞬で顔が熱くなる。

そのとき後ろから声。

「ちょっと如月くん」

美咲が机に手をついた。

「愛桜ナンパしてる?」

「ち、違うよ!」

私は慌てて言う。

凛は少し笑った。

「してない」

「名前聞いただけ」

美咲は腕を組む。

「怪しいなー」

してない」

「名前聞いただけ」

凛がそう言うと、美咲は腕を組んだ。

「ほんとにー?」

凛は少し肩をすくめる。

「ほんと」

それから美咲を見る。

「……で」

「そっちは?」

美咲が首をかしげる。

「ん?」

凛は言った。

「名前」

「あー、私?」

美咲はにこっと笑った。

「立花 美咲」

「よろしくね」

凛は小さくうなずく。

「如月」

「知ってる」

美咲がすぐに言う。

「有名だから」

「優しいイケメンって」

凛は少し困ったように笑った。

「誰が言ってるのそれ」

そのとき。

私の手が机の上の消しゴムに当たる。

ころっ

「あっ」

消しゴムが机から落ちた。
ころころ転がって凛の足元まで行く。

「ご、ごめん……!」

私が拾おうとした瞬間。

すっと手が伸びた。

凛が消しゴムを拾っていた。

「はい」

「ありがとう……」

私は少し恥ずかしくなりながら受け取る。

凛は消しゴムを見て言った。

「これ、もうほとんどないじゃん」

「え……」

私は自分の消しゴムを見る。
確かに、かなり小さくなっていた。

美咲がすぐ笑う。

「愛桜、消しゴム最後まで使うタイプなんだよ」

「っ……」

私は顔が熱くなる。

凛は少し笑った。

「すごいね」

「そんな小さいのよく使えるね」

「べ、別に……」

私は小さく言う。

すると凛が机の中を少し探して、新しい消しゴムを机に置いた。

「これ使えば」

「え?」

私はびっくりする。

「いいの?」

凛はさらっと言う。

「別に」

「どうせ家にまだあるし」

美咲がすぐ言った。

「え、やさし!」

凛は少しだけ笑う。

「ドジで落としそうだから」

私はまた顔が赤くなる。

「……ありがとう」

凛は軽くうなずいた。

そのとき

ガラッ

ドアが空いた

「凛ー」

教室のドアの方から声がした。

私たちはそっちを見る。

そこに立っていたのは、二人の先輩。

背が高くて、少し目立つ雰囲気の人たちだった。

凛が少し驚いた顔をする。

「……湊音、歌那汰」

二人は教室に入ってくる。

歌那汰先輩が凛を見ると、少し笑った。

「珍しいじゃん」

「凛が女の子と話してる」

私は一瞬固まる。

湊音先輩も少し楽しそうに言う。

「ほんとだ」

「どうした?」

凛は少し呆れたように言った。

「別に」

歌那汰先輩は私たちを見る。

そしてにやっと笑った。

「へぇ」

「友達?」

私は慌てて言う。

「お、同じクラスです!」

美咲も横から言う。

「今年から同じクラスなんです」

歌那汰先輩はうなずく。

「なるほど」

それから凛を見る。

「でもさ」

「凛が女子と普通に喋ってるの珍しい」

凛は小さくため息をついた。

「うるさい」

湊音先輩が笑う。

「まぁまぁ」

「凛、ちょっと来て」

「用事ある」

凛は少し面倒くさそうな顔をする。

「……今?」

歌那汰先輩が言う。

「今」

凛は椅子から立ち上がる。

そして少しだけ私を見る。

「消しゴム、落とすなよ」

「……!」

私はまた顔が赤くなる。

凛はそのまま先輩たちのところへ行った。
三人は教室を出ていく。

その瞬間。

美咲が私を見る。

「ねぇ今の見た?」

「……え?」

美咲はにやっと笑った。

「如月くん、めっちゃ気にしてるじゃん」

「そんなことないよ笑」