手の届かないあなたと

プロローグ

「はぁ……かっこいい……」

ベッドの上でスマホを握りながら、私は小さくつぶやいた。

画面の中には、今人気の歌い手グループ。
💎 ジュエリング。

その中でも、私の最推しは――

💙 Aqua(アクア)くん。

落ち着いた低い声。
優しくて少しクールな話し方。
そして、歌い出した瞬間に変わる雰囲気。

「ほんと…声よすぎ…」

イヤホンから流れる歌声に、思わず胸を押さえる。

「顔もかっこいいし…声もかっこいいし…」

思わずベッドに顔を埋めた。

「好きすぎる…」

そのとき、動画の中のAquaくんが少し笑った。

『今日も見に来てくれてありがとな』

その低い声に、心臓がドキッと跳ねる。

「もう……ほんとかっこいい……」

私は小さくつぶやいた。

「一回でいいから会ってみたいな…」

でも、その願いが――まさか次の日、学校で叶うなんて。そのときの私は、まだ知らなかった。

2月の朝。

廊下の窓から冷たい空気が入ってきて、私は思わず肩をすくめた。

「さむ……」

まだ朝早いせいか、廊下にはあまり人がいない。

私は教室へ向かいながら、小さくつぶやく。

「昨日の動画、かっこよかったな……」

頭に浮かぶのは、私の最推し。

💎 ジュエリング

その中でも――💙 Aquaくん。

(歌も声もかっこよかったな……)

そう思いながら歩いていると。

ガサッ

「あっ!」

持っていたノートが手から滑って、廊下に落ちた。

紙がばらばらっと広がる。

(またやっちゃった……)

慌ててしゃがもうとした、そのとき。

目の前に、すっと手が伸びた。

「…これ」

落ちていたノートを拾ってくれる。

私は驚いて顔を上げた。

そこにいたのは― 如月 凛。

同じ学年の男子。

背が高くて、整った顔立ち。
でもあまり目立たない、静かな人。

「ぁ……ありがとうございます…!」

ノートを受け取ると、凛はもう一冊拾って差し出した。

「これも」

「あ、ありがとうございます…!」

私は慌てて残りのノートも拾う。

凛はそれを見て、少しだけ微笑んだ。

「気をつけてね」

それだけ言うと、凛は静かに廊下を歩いていった。

私はその背中を見ながら、少しだけぼーっとする。

(優しい人だな……)

でもそのときの私は、まだ知らなかった。

あの人が――

私の大好きな歌い手グループ
ジュエリングのメンバーだなんて。