かこん ことん
室内に鳴り響く、心地の良い音。
目の前では結構なスピードで飛んでくる…球。
「うわー、また一点取られたや。ザク、本当に強いよね」
「いやいや。霧も上手いからな?うちの部活来て欲しいくらい……」
笑いながら言葉を交わす。
そう。最初に霧が連れてきてくれたのは、卓球が出来る公共施設。
こじんまりとしてるけど、ラケットとかの部品は新しくて使いやすい。まさに卓球選手の隠れ場みたいなところだった。
しかもたぜ?1時間貸切で…なんとワンコイン。
「まぁ俺は練習してきたから、ねっ!」
霧が経験者なみのサーブを繰り出す。さっき聞いたけど、これ独学らしい。
俺はその球を何とか打ち返した。
そしてまた、黙々とラリーが行われる。
「ふー疲れたっ。ちょっと休憩しようかな」
俺がワンミスしてしまったことで、ラリーは途絶えた。そして霧がそう言い、近くの椅子に置いてあったペットボトルを掴んだ。
「えー?あともう一回だけ…」
「さっきから、あともう一回繰り返してるよ?」
おかしそうに笑う霧。
でも卓球は本当に楽しい。しかも霧は強いし、やりたくなってしまうのもしょうがないのだ。
「生き生きしてるね、ザク」
「え…そう?」
俺が聞き返すと、うんと答えてくれる。
確かに…心は清々しい気持ちになっていた。でも趣味に没頭する時は、誰だってそうだと思う。
「霧の趣味、なに?やっぱり音楽?」
気になって聞いてみた。俺は卓球以外にも、辛い物食うとか…まぁ色々ある。
でも、俺は霧の趣味とかあんまり聞かない。ピアノが好きで弾いてる…くらいしか。
「んーまぁ、音楽聴くのも好きだよ」
「も、ってことは…他になんか好きなことあんの?」
俺が問い詰めるようにそう言うと、霧は困ったような顔をした。
「でも…今日はザクを楽しませる日でしょ?」
何かを見透かしたような目。
まさか…俺が霧の好きなこともしよう、って言おうとしたのバレた?流石だな。
きっと彼は、俺を優先しようとしてる。
もしかしたら俺のチームメイトっていう立場を皐月たちに譲りたくないって精神もあるかもしれねぇけど…
優先しようとしてくれるのは、紛れもなく霧の優しさだから。
「いや、今日は一応バトルって肩書きだけど…全員が楽しむ日。だから霧も楽しいことしようぜ?」
俺がそう言うと、霧は嬉しそうに微笑んだ。
「…優しいね、ほんと」
「それは霧もな」
「ううん、俺は全然だよ…」
意味ありげに呟き、噛み締めるかのように目を瞑る。
そしてもう一度目を開けた。
「ザクはお人好しだね。だからアイツらにも気にいられる」
「気に入られる…ま、大切にしてくれるのはありがてーけどな」
やっぱ人は大切にされると、気分が上がっちゃうもんじゃん?
「でも、もしかしたら…予算オーバーしちゃうかも」
「いーよ。俺が行こうって言ったんだし」
予算とか俺の気持ちとか考えないで、霧の好きなことをしよう。
そんな気持ちで見つめると、それが伝わったのか…ラケットをカゴの中に入れた。
「もうすぐ1時間経つよね…延長しなくて大丈夫?」
「あぁ。卓球は随分楽しませてもらったし」
俺がそう言うと、2人で片付けをすることにした。
そしてカウンターでカゴを渡し、外へ出る。
「じゃあ…ザクのご厚意に甘えて」
そう言うと、霧は歩き出した。
