「悪い。飲み物を買ってくるから、少しここを離れる」
慧斗さんがそう言ったので、俺が「はい」と応えると慧斗さんは自動販売機へとかけていった。
「霧?」
慧斗さんもいなくなってしまったので、霧に声をかけてみた。
店を出る直前くらいから、霧は上の空だったから。
「…明日、バトルだよね」
俺と目を合わせないでそう聞いてくる霧に、違和感を覚えた。でも答えないのもアレなので、俺は口を開く。
「あぁ…そう、だな。明日はバトル」
「聞いてるかな?俺が午前、慧斗さんたちが午後に真と過ごすって」
霧の言葉に驚く。いや、初耳なんだが……
「その反応、聞いてなかった?」
ははっ、と笑みを零す霧に小さい苦笑いを返す。
でも霧はどこか浮かない顔をしていた。
「んで、明日…9時にいつもの公園に集合してくれる?」
「りょーかい。9時な」
休みの日、いつも朝飯食ってるくらいの時間だけど…明日は大切な日だし寝坊はしねーようにしなきゃ。
「…ザクは、いいの?」
「何が?」
「だって、もしかしたら俺が…嘘吐いてるかもしれないんだよ」
霧は自信なさげに、そう聞いてくる。俺は聞かれたことにびっくりしたけど、すぐに首を横に振った。
「いいんだよ。別に、記憶ない時なんて…正直気にしてないし」
「え…そ、そうなの?」
「あぁ」
俺がそう言ったから、霧はポカンとしていた。
そりゃまぁ、気にしてないって言ったらあれだけど……
「今回のバトルで、ちゃんと…決め、る。どっちと過ごしていけば楽しいのかって」
心の痛みを無視して、俺は霧にそう言った。
すると霧は…小さく笑みを作って「そっか…」と言った。
「…うん、そっか」
噛み締めるようにもう一度呟くと、霧は歩き出した。
「え、霧?皐月たち待たねぇの?」
「いい、俺は先に帰るね。んじゃまた明日」
「あ、おう…また」
手を振って去っていく霧を、止める間もなく見送ると…ちょうど皐月が店内から出てきた。
「よ、待たせたな!…って、慧さんと食わせ者は?」
きょろきょろと辺りを見回す皐月に、俺は応える。
「慧斗さんは…飲み物買いに行った。霧は、先に帰った」
「え?食わせ者帰ったの!?」
顔がぱあっと輝いたのを見て、俺が怪訝そうな視線を向けると…皐月は俺の視線を受けて考え込むように言った。
「でも、アイツなんで帰ったの?別にオレは真を取り合う気まんまんだったのに…」
「取り合うって…でも、なんで帰ったんだろな」
サラっとからかうような事を言われたのでムスッとしたが、霧が帰った理由もやっぱ気になった。
まぁ…また用事かな。
「皐月も会計終わったのか。待たせてすまなかった」
慧斗さんがお茶を手に駆け寄ってくると、皐月が大声で言った。
「慧さーん!食わせ者帰っちまったってよー」
「え?奏、帰ったのか?」
慧斗さんも驚いたような素振りを見せた。だけど少し、口が綻びたような…?
「…んま、オレらもお開きにするかー!」
「え…い、いいのか?」
「逆にダメな理由なくね?明日もあるし!!」
皐月がそう言うと、慧斗さんは「まぁ、そうだな…」と言った。すげー名残惜しそうにしてるけど。
でも俺もびっくり。だって、皐月ってヤンチャだし今日は振り回される覚悟で家を出たのに。
「んじゃ、またな真ーっ!!」
「俺らはこっちだからな…気をつけろよ」
「あ、はい…今日はありがとございました」
お礼を言うと、皐月と慧斗さんは歩いていった。
…なんだろな。カフェを出る頃には、なんだか全員違う人のように見えた。
(もしかして…中身、入れ替わってる!?)
だって、なんか変だった気がする。ほんとに。
そう思い立って、慌てて振り返るけど…もう2人は人混みに紛れて見えなくなっていた。
あ、明日問い詰めねぇと…!でも、連絡先交換してるしそこで聞くか…?
「よし、帰ったら連絡しねーと……」
そう思い立って、急いで家へと帰った。
俺はそん時、そんな意味のわからないことしか考えてなかった。
頭の片隅にある…バトルへの想いへと向き合わずに、俺は明日を迎えることとなる。
