「ふぅ、やーっと帰れる…」
隣で俺に合わせて歩いてくれる霧が、嬉しそうにそう言う。
今日は卓球部、吹奏楽部ともに部活がなかったから、久しぶりに下校も一緒。
「霧、今日の数学寝そうだっただろ…まさか霧が寝るなんてな?」
「えー?そういうザクだって、英語で先生に当てられた時すげー焦ってたじゃん」
「な…あれはしょうがねぇじゃんか!」
「はは、お互い様ってことー」
2人でふざけあいながら、夕暮れに照らされる静かな道を歩く。
でも本当に面白かったな…霧、もうすぐ寝そうってなったときに誰かが大きな声で発言するんだから。
あ、大声って言ったら……
俺はある人物を思い出してしまう。
今日、俺の前に突然現れたヤンチャ男…じゃなくて飛葉。
結局今日は、飛葉と慧斗さんに会うことはなかった。
なんなら俺が見た幻だったのかもしれないと思うくらいに、なんの噂も聞かなかったし。
「どした、ザク?」
俺がこくりと黙り込んだのに気づいた霧が、心配そうに俺に話しかけてくる。
どうせなら…と、俺は冗談混じりに今朝のことを話すことにした。
「今日の朝、霧が部室行ったあと…変なことがあってさ」
「…へぇ?どんなこと?」
霧のその反応に、少し違和感を覚える。
彼なら…もっと楽しげに聞いてくると思ったが、今は真顔。
なんならどこか神妙な面持ちをしていたから。
「えと…初めて会った男子が『お前のチームメイト』って言ってきて」
「おかしな話だろ?」俺が霧を笑わせようと、薄笑いを浮かべる。
だけどやっぱり、どこか変な霧は考え込むように目線を下へと向けた。
「…霧?」
今度は俺の方が心配になって、顔を覗き込もうとする。
だけどその前に、彼は顔を上げた。
「はは、変なやつも居るもんだねぇ。夢だったんじゃない?」
「あ、それ思った!寝ぼけてたのかな…」
霧は面白おかしそうに笑う。いつもの霧だった。
「それでさ_______」
「あーごめん。俺、寄り道して帰んなきゃだから」
俺がさっきの続きを話そうかと思い口を開いたら、それを遮るように霧が言葉を被せてきた。
「え…どこ行くの?」
「ん?用事ー」
「いや用事って……危ねぇこととか、じゃないよな」
そうなら心配で、いてもたってもいられなくなる。
もしや何か誰にも言えない秘密持ってて、誰かを助けるために今から危険な場所に…?
それかなんかの秘密組織に入ってるとか…!?
「まってザク。変なコト考えてるよね?」
「霧、誰かのために危険なこととかするなら俺とか頼れって…!」
「ちょちょ、ほんとに何考えてるの!?」
「違うから!買い物頼まれてんの!」と、俺の真剣な気迫に焦ったように言う。
なんだ、ヒーローじゃねぇのか……でもまぁ買い物なら危なくないし、良かったか。
「はー…ほんと最高、ザク」
「いや、だってそうかと思うじゃん…」
「思わねーから!想像力豊かなのはいいけど、あんま惑わせないでよね!」
あはは、と俺らは2人で笑った。
確かに俺の言ってることはめちゃくちゃかもだけど、そういう考えだって心の隅にある。本気で。
「んじゃ、スーパー寄ってくる」
「おう、またな」
「また明日ー」
スーパーと俺の家は真逆だから、ここで別れる。
笑顔で手を振って、俺は霧に背を向ける。
…でも、なんだか霧のことが気になってもう一度振り返ってみた。
_______そこには夕日による逆光で、黒く染まった背中があった。
