空白の卒業アルバム

光が引いたあと、結月はひとりで廊下に立っていた。

窓の向こうで、雨が細く降っている。
伸ばした指先には、もう何も触れていない。
それでも掌には、最後の温度だけが、まだ消えずに残っていた。

「結月!」

階段のほうから真帆が駆けてくる。
結月は振り返って、やっと息を吐いた。

「……大丈夫!?」

真帆が結月の肩を掴む。
その手はあたたかくて、生きている人の温度だった。
結月はその熱に少しだけ泣きそうになりながら、頷く。

「大丈夫。……先輩に、会えた」

真帆の目が揺れる。

結月は胸ポケットの栞を押さえた。
端の少し毛羽立った紙の感触が、ここまでの全部が夢じゃなかったと教えてくれる。

「方法を、聞いたの」

「方法?」

「先輩の名前を、学校に返すの」

言いながら、胸の奥がまた熱くなる。
言葉にした瞬間、それはもう後戻りできない約束になった気がした。

「卒業、させてあげたい」

真帆はしばらく黙っていた。
それから、いつもの少し強気な目で、結月をまっすぐ見た。

「……やろう」

その一言だけで、結月は救われた気がした。