空白の卒業アルバム

翌日、結月は学校へ行った。
肩はまだ痛いし、頭も少し重い。
でも、教室に入った瞬間、視線が集まった。

「結月、大丈夫?」

「旧校舎で事故があったって聞いたけど……」

クラスメイトが口々に言う。
心配されているのはわかる。でも結月が欲しい言葉はそれじゃない。

先輩は?
あのとき一緒にいた人は?

誰も言わない。
誰も、結月の隣にいたはずの人を、最初から知らないみたいに。

結月は返事を曖昧にして、席に座った。
胸ポケットの栞を指で確かめる。

ある。
それだけで、まだ息ができる。

放課後、真帆が声を掛けてきた。

「行くよ」

真帆はいつも通りの口調で言うけれど、目は真剣だった。
結月は頷いて、鞄を持って立ち上がる。

卒アル制作委員の部屋は、特別棟の一角にある小さな準備室だった。
普段は鍵がかかっていて、委員しか入れない。
真帆が鍵を開けると、紙とインクの匂いがした。

中にはパソコンが二台。
机の上には、クラス写真のチェックリストや、先生たちから回収したスナップ写真の束。
壁には「提出期限厳守!」の紙が貼ってある。

真帆が椅子に座り、パソコンの電源を入れた。

「まず、三年の掲載リスト。ここに全部入ってる」

画面が立ち上がる。
フォルダが開かれ、学年ごとのデータが並ぶ。

真帆が「3年」と書かれたフォルダをクリックした。
A組、B組、C組。
その下に、委員会ごとの写真フォルダ。

「……やっぱり三クラスしかない」

結月が小さく言うと、真帆は頷いた。

「うん。で、結月が言ってた名前――朝倉陽介、だっけ」

「うん」

真帆が検索欄に打ち込む。
画面の中でカーソルが点滅して、結月の心臓もそれに合わせて点滅するみたいに跳ねた。

エンター。

――検索結果:0件。

結月の胃が、きゅっと縮む。

「……ない」

真帆が小さく呟いた。

「でも、待って。名字だけで探す」

真帆が「朝倉」と打つ。
エンター。

 ――0件。

「うそでしょ……」

真帆の声が、初めて揺れた。

結月は机の端を掴んだ。
画面を見つめても、文字は変わらない。

「……じゃあ、写真」

真帆はフォルダを開いていく。
クラス写真。個人写真。委員会集合写真。部活スナップ。行事。

結月は息を止めて、ひとつひとつ目を走らせた。
知らない先輩たちの顔が、画面の中で笑っている。

でも、どこにも、朝倉先輩の顔はない。

「……結月、見落としてない?」

真帆が言う。

「ない。……絶対、ない」

結月は言い切った。
だって、見落とせるはずがない。
あの目。あの横顔。あの笑い方。あの傷の線。

真帆は唇を噛んで、別のファイルを開いた。
名簿データ。氏名と出席番号が並ぶ一覧。

A組、B組、C組。

そこにも、ない。

結月は、視界が滲むのを感じた。

「……私、ほんとに――」

「待って」

真帆が結月の言葉を切った。

「結月が見たって言うなら、他も当たる。図書室。貸出端末」

結月はハッとして頷く。