空白の卒業アルバム

翌日、結月は学校を休んだ。
病院で検査を受け、脳震盪は軽いものだと言われた。
肩の打撲と手の擦り傷。大事には至っていない。

医者は「安静に」と言った。
母も「今日は休みなさい」と言った。

でも結月の頭の中は、安静とは真逆だった。
止まってくれない。
雨の日の図書室。
先輩の横顔。
「僕も」という声。
渡り廊下で消えた温度。

夕方、スマホが震えた。
真帆から電話がかかってきた。

「結月!?」

真帆の声は、いつも通り元気なのに、少しだけ焦っている。

「結月、大丈夫?」

「……うん。でも……」

「やっぱり、怪我が傷む?」

「違うの。先輩が……いないって言われた……」

「え、ちょっと待って、先輩って、雨の日の図書室の美形先輩?」

「名簿にいないって言われた」

「は?そんなことある?」

結月は息を吸って、話し始めた。
雨の日の図書室で会ったこと。
朝倉陽介という名前。
三年E組と言ったこと。
昨日、渡り廊下で事故が起きて、先輩が結月を庇って消えたこと。

話しながら、結月は自分がどれだけ変なことを言っているか自覚して、喉が苦しくなった。

真帆の返事がない。
いつもの真帆なら、途中で絶対に突っ込むのに。

「……真帆?」

「……結月、冗談じゃないよね?」

真帆の声が低かった。
冗談を言うときの軽さがない。

「冗談だったら、こんなに……」

結月は付箋を握りしめた。
紙がくしゃっと鳴る。

「……証拠は?」

真帆が言った。

「証拠……」

「だってさ。結月が本当に見たなら、どっかに残ってるでしょ。名前とか、写真とか」

結月は、喉の奥が詰まるのを感じた。

「……写真は、嫌がってた」

「え?」

「撮らないでほしいって。すごく……怖いみたいに」

真帆が息を呑む音がした。

「……じゃあ、今、結月の手元にあるのは?」

結月は机の上を見た。
付箋。
栞。

「……付箋と、栞」

「それ、先輩の字?」

「うん。たぶん。……絶対」

「見せて」

真帆は即答した。

「今日これから、寄っていい?」

結月は迷った。
でも、拒む理由はなかった。

「……うん。来て」

電話を切ったあと、結月は心臓が速くなっているのに気づいた。

真帆が来る。
他人が、この話に触れる。

それは怖い。
でも、怖いだけじゃない。

少しだけ、救われる気がした。