空白の卒業アルバム

翌朝、目が覚めたときの空は、まだ晴れていた。

窓の外は薄い青で、雲が少しだけ多い。
雨の匂いはしない。

結月は布団の中で、スマホを掴んで天気を確認した。
やっぱり、降水確率七十パーセント。

「……お願い」

小さく呟いて、自分で苦笑した。

中学生が天気にお願いするとか。
どうかしてる。

制服に袖を通して、栞が入っている胸ポケットを指先で確かめる。
ある。
それだけで、今日一日をちゃんと過ごせる気がした。

朝ごはんの席で、母が窓の外を見ながら言った。

「今日、夕方から雨だって」

「……うん」

「傘、持っていきなさいね」

「わかってる」

返事をしながら、結月は自分の声が少しだけ明るくなるのを感じた。
雨の話題だけで、気持ちが跳ねる。
それがばれたくなくて、味噌汁を飲むふりをして顔を伏せた。

教室は、いつも通りうるさい。
朝のホームルーム前のざわざわした空気の中で、結月だけが、窓の外を何度も見てしまう。

「結月、今日さ」

前の席の真帆が、振り返った。

「放課後、雨らしいよ」

その一言で、結月の心臓が跳ねた。
わかってる。見てる。知ってる。
なのに、人の口から言われるだけで現実味が増して、胸が熱くなる。

「……そうみたい」

なるべく平静に答える。
真帆は、結月の顔をじっと見たあと、にやっとした。

「なにその顔。わかりやすすぎ」

「普通だよ」

「普通は、天気予報でそんなに目がきらきらしない」

「してない!」

結月が小声で抗議すると、真帆は肩をすくめた。

「……で。言うんでしょ?」

結月の心臓が、いきなり重くなる。

「な、なにを」

「気持ち」

真帆は小さく笑った。
茶化しているようで、ちゃんと真剣な目をしている。

結月は、机の端を指でぎゅっと掴んだ。

「……言う、つもり」

「うん」

真帆はそれだけ言って、前を向いた。
それが、妙にありがたかった。

言うつもり、じゃない。
言う。

結月は、心の中で言い直した。