空白の卒業アルバム

雨の予報は、いつも少しだけ意地悪だ。

降水確率七十パーセント。
それは「降るかもしれないし、降らないかもしれない」の、どちらにも逃げられる数字で。
だから結月は、スマホの画面を閉じたあとも、胸の奥が落ち着かなかった。

――降って。
――お願いだから、降って。

雨が降らないと、会えない。
会えないと、伝えられない。

伝えられないまま時間だけが過ぎたら。
雨が降らない日が続いたら。
そのうち、もう二度と、あの図書室の窓辺の席に彼が現れなくなったら。

考えただけで息が詰まった。

ベッドに入っても、眠気は来ない。
布団の中で、深呼吸を一回。
そして、声に出してみようとした。
小さく。誰にも聞こえないくらいに。

「……すき、です」

自分の声が、思ったより震えていた。
自分で言って、自分の声に驚いて、結月は口を押さえた。

言えないわけじゃない。
音にはできる。

でも――目の前に先輩がいたら、言える?

雨の図書室で、先輩が目を細めて。
「結月」と呼んで。
その声の余韻が、胸を掴んだら。

きっと、もっと怖くなる。

結月は、息を吐いた。
吐いて、もう一度、胸の中で言い直す。

次の雨の日。
ちゃんと伝える。

明日の放課後。
雨が降ったら。
図書室で会えたら。

――結月は、そうやって条件を増やしていく自分が、少し怖かった。

でも、逃げない。
逃げたくない。

そのために、伝えるって決めたのだから。