死なないで

「海汰くん。」

もうほとんど、目が見えなかったけど、海汰くんがこっちを向いた気がした。

「海汰くんは、要に似て優しいんだね。だって、本当に月村さんを殺したかったなら、刺し殺せばよかった。でも、そうしなかった」

「それは、出来なかっただけで」

海汰くんが言った。

「違うよ。しなかったんだよ。月村さんがいた部屋には、まだ火が回ってなかったの」

「……っ」

海汰くんが何か言おうとして言葉に詰まっているようだった。

「海汰くん、海汰くんは優しいから、私がいなくなったらその優しさで要を守ってね」

私は、笑顔を作ろうとした。

「紗夜。いなくなるなんて言わないで」

「要。私は今生きてるから。きっと治療したら生きられる」

本当はそうは思わない。

だって、さっきからどこも痛くないんだよ。もう何も感じないんだよ。

「でもね、ここから飛び降りて死ぬの。私の意志で、そうするの。海汰くんのせいじゃない。だから、要のせいでもない」

「紗夜。死なないで」

まだ喋れる。

体の感覚はないのに、声が出る。

ありがとう。神様。最期に私に声をくれて。

「要、死なないで。沢山私を思い出して泣いて、私を思い出さなくても良くなった頃に、忘れてね。愛してる」

愛の根底は、その人に死んで欲しくないと思うこと。

たとえ、自分がそばにいなくても、生きていて欲しい。

私は、崖から飛び降りた。

ありがとう。

全部に感謝をしたい。今まで、私が願いを託した全てに。