アレカレ!

 その日の放課後も、私と七五三くんはいっしょに下校していた。

 彼氏と並ぶ帰り道。
 男子と二人っきりで歩くって、めっちゃ新鮮!
 私は、となりの彼氏に聞いてみる。

「ねぇ、七五三くん。次のお休み、何か予定とかある?」

「予定? いや、べつにないけど」

「だったら――二人でどこかに遊びに行かない?」

「遊びに? わざわざ?」

「わざわざ!」

「行きたいの?」

「行きたいの!」

「葉月さん一人で行ってくればいいんじゃないかなぁ?」

「は? なんで? 七五三くん、私の彼氏でしょ?」

「あぁ、そっか……」

 こないだから付き合いはじめた私たち。
 だけど七五三くんは、いっつもこんな感じ。
 いっしょに下校する時も、あんま私の話を聞いてない。
 そこらへんを飛んでる、チョウチョとか見てる。

 いつもそんな調子だから、私「七五三くんって集中力ないし、きっと勉強とかあんま得意じゃないんだろうなぁ」って思ってた。
 でも、こないだの中間テストの結果を見せっこしたら――なんと七五三くん、学年で一位!

 何なの、七五三くん?
 勉強とか、全然してなさそうなのに!
 コツコツ真面目に勉強してた私が、なんかバカみたいじゃん!

 でも――理想的なカップルって、良い影響を与え合うって言うよね?
 だから私、彼に聞いてみる。

「ねぇ、ところで七五三くん。あなた、いつもどんなやり方で勉強してるの?」

「やり方? 勉強?」

「うん。やっぱ家に帰ったら、めちゃくちゃ勉強してるんでしょ?」

「え? なんで? なんで家で勉強しなきゃいけないの?」

「はい?」

「それにボク、教科書全部、学校のロッカーに入れてるよ」

「そ、そうなの? それで、学年トップ? え、意味わかんないんですけど……」

「ボクは思うんだけど――」

 七五三くんが、私の顔を見る。

「学校のみんなは、勉強のやり方を勉強してるんじゃないかなぁ?」

「勉強のやり方を、勉強してる?」

「うん。ボクにはそんな風に見えるよ」

 七五三くんが言うことは、なんだかたまにムズい。
 考えさせられる。
 でも七五三くん本人は、そう言ってからいきなり道を離れた。
 すぐそばの草むらにある、綺麗な花を摘んでくる。

「はい、葉月さん。この花、キミにあげる。キミにとっても似合うと思うよ」

 彼に差し出されたのは、道端に咲いてた赤紫色の小さな花。
 レ、レンゲですか?

 その瞬間の、彼の――子どもみたいな笑顔。
 いや、あの、これ、子ども『みたいな』じゃなくて、まさに子どもの表情じゃないですか……。

「あ、ありがとう」

 とまどいながら、私はそれを受け取る。

 あ、あのね、七五三くん。
 私たち、もう中一だよ?
 まぁ、あなたがお花をプレゼントしてくれるのは、すごく嬉しいんだけど。

       𖧧

 そんなわけで、次のお休みの日――私たちは鶯岬駅で待ち合わせをした。

 あんま気がすすまない感じの七五三くんを、私、大説得!
 なんとか初デートにこぎつけました!

 お昼過ぎ。

 私たち二人の、初めてのデート!
 今日の私のコーデ、おNEWのブラウスに、ミニスカート、ツルッツルの靴!

 これ、可愛くない?
 めっちゃオシャレしてきたよ!
 やっぱ彼氏には、学校とは違う自分を見てもらいたいもんね!

「ゑ……」

 待ち合わせの時間キッカリ。
 向こうから七五三くんが歩いてくるのが見える。

 あ、あの……か、彼……私の彼氏……せ、制服なんですけど?
 って言うか、肩にスクールバッグまで引っかけてるんですけど?
 つまり、いつもと、同じ……です……。

「お待たせ、葉月さん。今日も良い天気だね」

「な、七五三くん。せ、制服なの?」

「え? 何?」

「は、初めてのデートだよ? その、フツー、オシャレとかしてくるでしょう?」

「オシャレ? あぁ、オシャレかぁ。でもボク、服ってこれしか持ってないんだよね」

「せ、制服しか持ってないの?」

「うん」

 す、すごい人がいました……。
 しかもその人、私の彼氏です……。
 七五三くん、イケメンで、最近学年の女子にも見つかりはじめてるのに……服は、制服しか、持っていません……。

「で、今日は何するの?」

 すぐそばのベンチに腰かけ、七五三くんが言う。

 い、いや、私!
 こんなのでくじけてちゃダメだ!
 ファイ!
 元気を出して!

 今日は人生、初のデート!
 ゼッタイに、心に残る素敵な思い出を作るんだ!

 七五三くんは、もともとちょっとアレな人!
 それは付き合いはじめる前から、よぉくわかってたはず!

「ど、どこかに遊びに行こうよ! 普段行かないようなとことか!」

「普段行かないようなとこかぁ……」

「電車に乗って、お菓子とか食べちゃったりして!」

「え? お菓子? 買うの? まいったなぁ。ボク、お金、今日これしか持ってないよ」

 制服のポケットから、七五三くんがジャラジャラと小銭を取り出す。

 さ、三百円……。
 彼女との初デートなのに……所持金が、三百円……。

「葉月さんは、その、どういうところに行きたいの?」

「どういうところ……そ、そうだね。言われてみれば、私、どういうところに行きたいんだろ……」

「目的も無いのに、どこかに行くの? 一人旅でもないのに?」

「そ、そんなこと言われても……」

「じゃあ、葉月さんは、どんなとこに行ったら楽しい? ワクワクする? 良い気分になれる?」

「どんなとこ……うーん……せっかくの初デートだから……景色の良いところ?」

「景色の良いところかぁ……」

「でも七五三くん、三百円しか持ってないんなら、電車になんか乗れないよね……」

「まぁ、乗れないよねぇ」

 なんか七五三くん、ちょっと他人事?
 表情も、なんかどうだっていい感じ。

 私、少し泣きそうになる……。
 思いきって、七五三くんに言った。

「じゃあ……今日、中止にする?」

「え? なんで?」

「だって七五三くん、あんま行きたくなさそう……」

 私が言うと、七五三くんが、やっぱり子どもみたいな顔でベンチから立ち上がった。

「とりあえず、行こっか。景色の良いところへ、ボクが連れてってあげる」

 そう言うと、七五三くんが私を置いてスタスタと歩きはじめる。

 えっと、あの、七五三くん?
 景色の良いところへ連れてってくれるのはうれしいんだけど……三百円で?

 三百円で、交通費が、二人分?
 あの、ごめんなさい。

 現代において、それはきっと無理だと思います……。

       𖧧

 駅を出て、私と七五三くんは歩いていく。
 でも私は、やっぱりションボリ。

 だって――生まれて初めてのデートだよ?
 それなのに、私の彼氏、三百円。

 そんなんじゃ、ジュースくらいしか買えないじゃない……。
 小学校の友だち同士じゃないんだから……。

「着いた。ここだ」

 七五三くんに連れてこられたのは、商店街の裏通り。
 誰もいなくて、建物も全部ボロボロ。

 何、ここ?
 ゴーストタウン?

 昔はたくさんお店が並んでたんだろうけど、今は全部シャッターが下りてる。

「ほら、葉月さん。どぉ? 素敵な場所だろ?」

 なんだか得意げに、七五三くんが言う。

 えっと、あの、ごめんなさい。
 ど・こ・が?

「ここはね、昔、この鶯岬町の中心部だったんだ。毎日毎日すごい数の人であふれかえってた」

 なんだか熱い感じで、七五三くんが語る。

 だから――何?
 私たちの間を、乾いた風がピュ~ッと通り抜けていく。

 あの、ここ、ビックリするくらい人がいません……。
 マジで。
 ホントに。

「ねぇ、七五三くん……」

 私はもう我慢できずに、彼に口を開く。

「ん?」

「私ね、今、すごくガッカリしてる……」

「ガッカリ? え? なんで?」

「だって……」

 下を向いて、私はなんとか泣くのをこらえた。
 だけど足もとに、ポツポツと涙がこぼれ落ちていく。

「え? 何? 葉月さん? なんで泣くの?」

 私の異変に気づき、七五三くんがあわてて近づいてくる。
 顔を上げ、私はもう涙も隠さずに言った。

「だって……今日、私たちの初デートだよ? なのに七五三くん、いつもの制服だし! お金も三百円しか持ってないし! 全然やる気ないじゃん!」

「え、あ、いや、ボク、めちゃくちゃやる気あるんだけど……」

「やる気ない! 全然ない! 七五三くんって、私のこと、ホントは好きじゃないんでしょ? 私がコクッたから、しかたなく付き合ってくれてるんでしょ?」

「いや、ボク、葉月さんのこと、大好きだよ」

「え?」

 あっ気にとられ、私は七五三くんの顔を見る。

 な、七五三くん?
 今、私のこと、大好きって言った?

 そういうの、言う人?
 言ってくれる人?
 ゼッタイ、そういうの、言わない人だと思ってた……。

「七五三くん、私のこと、好きなの?」

「うん。大好き」

「大好きなの?」

「うん」

「どのくらい? どのくらい大好き?」

「どうだろ? それはよくわかんないなぁ」

「ど、どうなの、それ?」

「とりあえず――ボクはキミの希望を叶えるよ」

 そう言うと、七五三くんは足もとに置いていたスクールバッグをゴソゴソと探った。
 中から、何かを取り出す。

 えっと、それ、今度は何ですか?
 二つの、こげ茶色の何か。

 ゴツゴツとしたフレーム。
 大きくて、サングラスみたいなブルーレンズ。
 革バンド。
 ゴ、ゴーグル? ですか?

「これをかけて」

 二つのうちの一つを、彼が私に手渡してくる。
 受け取って、私はそれを見つめた。

 これ、何?
 骨董品?
 なんか、ずいぶん古い感じなんですけど――。

「これをかけたらどうなるの?」

「かけてみたらわかるよ」

 七五三くんは、すでにそのゴーグルを装着してる。
 なんか、童話に出てくる昔の飛行機乗りみたい。
 その姿のまま、彼は空を見上げた。

「うん。あるね。まだ存在してる」

「まだ存在してる? 何が?」

「ほら、葉月さんも。早くそれをかけてみて」

「う、うん……」

 七五三くんに言われた通り、私はなんだか小汚いそのゴーグルをかけてみる。
 ホントはこんなの、かけたくないけど。

 でも七五三くん、私のこと、大好きって言ってくれたし。
 その時の七五三くん、なんかすごく可愛かったし。
 好きとか言われたら、女の子って、やっぱすごくうれしくなるものでしょ?

 でも、そのゴーグルを装着した瞬間――私は、自分が女の子であることを完全に忘れてしまっていた。

「んはぁぁぁぁぁぁぁ?」

 まるでおじさんみたいな、私の雄叫(おたけ)び。
 全然可愛くない、驚きの声。
 つまりそのくらい、私は超ビックリしてた。

 私たちのすぐ前に――大きな一本の塔が立っている。
 こ、これは――と、灯台?

 灯台っぽい!
 なんで、こんなとこに、突然、灯台?

 灰色で、アチコチがヒビ割れてるけど、間違いなく、これは灯台!
 灯台が、この裏通りのド真ん中に突然出現した!

「な、何、これ? いつの間に? さっきまで、こんなのここに無かったよね?」

 ゴーグルをはめたまま、私は七五三くんに聞く。
 七五三くんはとても楽しそうにほほ笑み、足もとのスクールバッグを肩に引っかけた。

「マボロシ塔だ。少なくとも、ボクはそう呼んでいる」

        𖧧

 マボロシ塔の下の部分、出入口のドアを開けて、私たちは中に入っていく。
 塔の内部はほぼ空洞で、階段しかなかった。

 しかも、これ、ちょっとレトロでオシャレな階段。
 たしか、らせん階段っていうやつ。

 どこからか、わずかな風が吹き込んでくる。
 だからきっと、ここは現実に存在していた。

 な、何ですか、ここ……。
 どうしてこんなのが、突然現れたんですか……。

「葉月さん」

「は、はい」

 ビビりまくっている私は、七五三くんになぜか敬語。

「トイレ、行きたくない?」

「い、いえ、大丈夫です」

「そっか。トイレは一階にあるから、行きたくなったら自由に行ってね」

「は、はい。お気づかい、ありがとうございます……」

 いや、あの、この状況、トイレに行ってるヨユーすらありませんけど……。
 ヤ、ヤバいです……。

 これ、何ですか?
 ここ、どういう場所なんですか?

 都市伝説、的な?
 ちょ、超常現象?
 いきなりこんな大きな塔が、裏通りとはいえ、街のド真ん中に出現するとか……。

 七五三くんが私の手を取り、ゆっくりと階段を上がっていく。

「ここはね、時空が歪んでる場所なんだ」

「時空が、歪んでる……」

「この鶯岬町の大半は、じつは埋め立て地なんだよ。だからこの塔から向こう側は、昔、海だったんだ」

「そ、そうなんだ……」

「で、この塔は、その時代に建てられた岬の灯台。それがずっと昔、時空のゆがみに捕らわれて、一夜にして消失(しょうしつ)した」

「一夜にして……消失した……」

「でも灯台は、今もここに存在してる。フツーの人には、決して見えないんだけどね」

「それを今、私たちは見てるの?」

「このゴーグルのおかげだよ。このゴーグルは時空のゆがみを修正するんだ。これをかけている限り、ボクたちはこの塔を見ることができるし、触ることだってできる」

「外から見た私たちは、一体どうなってるの?」

「時空のゆがみに入ってるんだ。ボクたちの姿は、他の誰にも見えない」

 階段のてっぺんに到着すると、七五三くんがそこのドアを開けた。
 すると一気に、外からの風が入り込んでくる。
 私の長い髪が、フワッと宙に踊った。

「葉月さんは、こういうのが見たかったんだろ?」

 灯台の展望デッキに出た七五三くんが、そう言って私を振り返る。
 そこからは――町のすべてを見渡すことができた。

 三百六十度、パノラマビュー。
 この灯台、すっごく背が高い。

 何、これ?
 現実?

 私は今、これまでに見たことのない角度で、この鶯岬町を見てる。
 アチコチにギューギューに詰まってる街並み。
 そのすき間を行き交う、たくさんの人々。

 これ、この感じ――たしかにさっき私が駅で言った『景色の良いところ』!

「さて。葉月さんの願いを一つ叶えたところで、お茶にしよっか」

「お茶?」

 七五三くんがうなづき、スクールバッグの中から座布団を取り出す。

 え?
 なんで座布団?
 どうしてそんなのが、スクールバッグの中に入ってるの?

 その座布団を、七五三くんが私の足もとに置いた。

「どうぞ。キミはここに座って。綺麗な洋服が汚れるといけない」

「あ、ありがとう……」

 私は、その座布団に腰を下ろす。
 なんか座布団なのに……意外とフカフカです……。
 続いて七五三くんは、スクールバッグの中から小さな白い箱を取り出す。

「今朝、早起きして焼いたんだ。葉月さん、きっとこういうのが好きなんじゃないかと思って」

 彼が、その箱を開ける。
 そこに入っていたのは――パイだった。
 まん丸で、美味しそうな焼き目がついた格子状の向こうに、オレンジ色の果実が見える。

 こ、これ、お店で買ってきたやつ?
 でも今、七五三くん、早起きして焼いたって――。

「あ、あの、七五三くん」

「ん?」

「こちらのパイは、その、あなたがお作りになられたのですか?」

「うん。そうだよ」

「な、なんか、すごくない?」

「そう?」

 七五三くんが、また子どもみたいにほほ笑む。

「好きな子のためだったら、ボクは何枚でもパイを焼くよ」

 その言葉を聞いて、なんか、私、泣けてきた……。
 知らないうちに、涙がポロポロと流れてくる。
 七五三くんは「え? なんで泣くの?」と、あわてて私にハンカチを差し出してきた。

 ありがとう、七五三くん。
 私、七五三くんがこんな準備をしてくれてるのに、さっきまで超わがままなことばっか言ってた。

 ごめんね……。
 ごめんね、七五三くん……。

       𖧧

 それから私と七五三くんは、ゴーグルをつけたまま、灯台の上でパイを食べた。

 なんかすっごく不思議なパイだったけど、甘くて、いくらでも食べれそう。
 水筒から彼が注いでくれたのは、あたたかいハーブティーで、これもめちゃくちゃ不思議な香り。
 なんだか体に良さそうで、パイにすごく合う。

 それから私と七五三くんは、マボロシ塔の上で色んな話をした。
 って言うか、しゃべってたのはほとんど私で、彼は「うん、うん」と笑いながら聞いてくれてた。

 あっという間に夕方になると、私たちはマボロシ塔の階段を下りていく。
 灯台の外に出てゴーグルを外すと、マボロシ塔は一瞬にして、私たちの前から姿を消した。
 だからやっぱり七五三くんが言うように、ここは時空のゆがんだ場所なのかもしれない。

 私たちは、夕暮れの裏通りを歩きはじめる。
 歩きながら、七五三くんが私に言った。

「今日は、その、どうだったかな? 楽しんでもらえた?」

「うん! すっごく楽しかった! ねぇ、七五三くん。マボロシ塔にはまた行ける?」

「もちろん行ける。行きたくなったら、遠慮なく言ってよ。また二人でお茶でも飲もう」

 駅に到着すると、もうお別れの時間。
 時間はまだ夕方だけど、早く帰らないと私はママに叱られる。

「それじゃあ、葉月さん。また明日ね」

 あっさりそう言って、七五三くんが帰ろうとする。
 私は――そんな彼の、制服の袖をつまんだ。
 「ん?」と、彼が振り返る。

「何? どうしたの?」

「あ、あのね、七五三くん……」

 私は、モジモジとしながら彼と向き合う。
 なんか、すごく恥ずかしい……。
 でも、こういうのは、きちんと言っとかなきゃいけないと思う。

「あ、あの、今日は本当にごめんなさい……やる気ないとか、三百円とか、わがままばっか言っちゃって……」

「あぁ。そんなことか」

 七五三くん、全然気にしてないって顔。

 でも、ホントはどう思ってるか、わかんないじゃん。
 『何だ、この女?』とか、思ってるかもしれないし。
 もう二度と、会ってくれないかもしれないし。

 でも私、七五三くんに嫌われたくない!
 だから、謝るところは、きちんと素直に謝りたい!

「私、すごく失礼なことを言ったと思うの。何て言うか、あなたを傷つけてしまったかもしれない……」

「いや、ボクは全然傷ついてないよ」

「ホ、ホントに?」

「うん。でもね、葉月さん――」

 七五三くんが、まっすぐに私を見つめる。
 なんか、すごくキラキラとした、子どもみたいな瞳。
 怖いくらいに、透き通ってる。

「幸せってね、じつはタダなんだ」

「幸せって……タダ?」

「そう。結局ボクら、今日お金を使ってないだろ?」

「う、うん。使ってない」

「でもボクはすごく楽しかった。キミは?」

「すごく、楽しかった……」

「ね? 幸せって、タダなんだ」

 七五三くんの言葉に、私はボーゼンとする。
 「それじゃ、また明日ね」と手をあげ、彼はそのまま帰っていった。
 私は、そんな七五三くんの後ろ姿をジッと見つめる。

 今日は――私の人生、初めてのデートだった。
 七五三くんと駅で待ち合わせて、泣いて、マボロシ塔に登って、パイを食べて、話を色々と聞いてもらった。

 これ、何だろう?
 何て言うか……めちゃくちゃ楽しかったんですけど?
 人生初のデートがこんなに楽しかったとか、私って、超ラッキーな女の子なんじゃないかな?

『幸せってね、じつはタダなんだ』

 私は、さっきの七五三くんの言葉を思い出す。

 なんか……七五三くんが言ったこと、ホント、すごく正しいのかも。
 私たち、今日お金を全然使ってないけど、めちゃくちゃ楽しかったし。

 私の彼氏は、ちょっとヘンだ。
 って言うか、すっごくアレだ。
 いや、ヘンだし、アレで、とにかく不思議な人だ。

 でも七五三くんといっしょにいると、私はなんだかとても楽しい。
 あんな人、他にはゼッタイいない。

 私、七五三くんの彼女になれて、本当に良かったよ。
 これからも、ずっとずっといっしょにいたいって思うよ。