アレカレ!

 はい。
 あれからずっと――私は、七五三くんのことばっか考えてます。

 私、やっぱり七五三くんのことが好き。
 ちょっとアレだけど、彼って、すごくすっごく魅力的!

 私、彼のこと、もっと知りたい!
 もっともっと知りたい!
 何て言うか、彼への興味が止まらない!

 だから、もぉ――私、思いきって告白するよ!
 『私と付き合って!』って、彼に気持ちを伝えてみる!

 でも……フラれたら、どうしよう?

 彼って、一体どんな女の子が好きなのかな?
 やっぱ可愛い系? 綺麗系?
 明るい人? 静かな人?
 彼ってちょっと変わってるから、そういうの、全然わかんない……。

 だけど、私――もう決めた!
 彼にコクる!
 この気持ち、もう絶対に止まんない!

        𖧧

 そんなわけで――その日の放課後、私は彼を校舎裏に呼び出した。

 はい。マジです。
 いよいよ告白です。
 一度も話したことない私に呼ばれて、彼は「えっと……」と、ちょっととまどった表情。

 やっぱ七五三くんって、私に興味ないのかな?
 だとしたら、めちゃくちゃショックだよ……。

 でも、私はくじけない!
 なんとかしてこの気持ちを、彼に伝えるんだ!

 勇気を出して、私は彼の前に立つ。

 え、でも、ホントにヤバいよ、七五三くん……。
 正面から見ても、マジでイケメンすぎ……。

「あ、あのね、七五三くん」

「うん。何?」

 初めて私に向けられた、七五三くんの言葉。
 子どもみたいに不思議そうな、キョトンとした顔。

 か、可愛い……。
 この人、何?
 マジで、何?
 思わず抱きしめたくなる気持ちをおさえ、私は思いきって彼に告げた。

「あ、あの、わ、私ね……中学に入学してから、ずっとあなたのことばかり考えてるの」

「え? ボクのことばかり?」

「うん。そう」

「じゃあ――今日の夜ごはんのこととか、次の休みは何しようとか、そういうのは考えないの?」

 七五三くん――真顔です。

 え、えっと……それは、その、一体どういうことでしょう?
 もしかして七五三くん、マジで、子ども?
 子どもの、素朴な疑問?

「い、いや、そういうんじゃなくて……もちろんそういうことも考えるけど、大部分は七五三くんのことばっか考えてるって言うか……」

「大部分がボクのこと……へぇ、キミって不思議な人なんだね」

 う、うわぁ……不思議な人に、不思議な人って言われた……。
 まるでゴリラに『キミってバナナがよく似合うね♪』って言われた気分。

 だけど――私はなんとか心を落ち着ける。

 やっぱり七五三くんって、こういう子どもっぽいとこも可愛い!
 こんな人を、彼氏にしたい!

「だから、その……あのね、七五三くん。もし良かったら……私と付き合ってくれないかな?」

「付き合う? 付き合うって、何? 何するの?」

「何するって……いっしょに登下校したり、勉強したり、デ、デートしたり……」

「あぁ! それって、もしかしてアレ? キミはボクと恋人同士になりたいってこと?」

「あ、う、うん……まぁ、そういうこと……」

「そっか……だったら、真面目に考えなきゃいけないなぁ……」

「あの、返事はね、今じゃなくていいの。私、待ってるから。今日は、その、私の気持ちを、あなたに伝えたかったって言うか……」

「あぁ、そうなんだね。ところでキミ――名前は?」

「な、名前?」

 私、もぉ、大・大・大・大・大ショック!
 もう一ヶ月以上同じ教室にいるのに、しかもとなりの席なのに、私、彼に名前も覚えられてない……。

 こ、これは脈なしだよ……。
 トホホすぎるよ……。
 私、もぉ、マジで泣きそう……。

「あの……葉月、しずく、です……」

「じゃあ、葉月さん。ちょっとそこに立っててくれる?」

 泣きそうな私にまったく気づかず、七五三くんが明るく言う。
 絶望の中、私はなんとか顔を上げた。

「ここに? ここに立っとけばいいの?」

「うん。背すじを伸ばして『気をつけ』のポーズ。まっすぐに、前だけを見て。あぁ、ラクな感じでいいよ。フツーに、こぉ、自然に」

「こ、こぉ?」

 なんだかよくわかんないけど、私は『気をつけ』のポーズをとる。
 すると彼が、ポケットからサッと何かを取り出した。

 な、何ですか、それ?
 メ、メジャー?

 つまりセロテープみたいにグルグルと布が巻かれた、距離を測定する道具。
 巻尺(まきじゃく)っていうのかな?
 とにかく、それ。

 それをかまえた彼が、私の足もとにひざまづく。

「それじゃあ、葉月さん。ちょっとこれの先っちょを踏んどいてもらえるかな?」

「ふ、踏めばいいの?」

「うん」

 七五三くんに言われた通り、私は巻尺の先っちょを踏む。
 すると彼は、カラカラカラカラと私から遠ざかっていった。
 距離的には、五メートルくらい?

 あの、すいません、七五三くん……。
 それは、その、一体何の距離を測ってるのでしょうか?

「なるほど……非常に興味深いな……」

 な、何が?
 何が、なるほど?
 何が、興味深いの?

 とまどうしかない私を放置し、七五三くんは次に自分の右手の人差し指にツバをつける。
 それを空にかざし、ジッと見つめた。

 か、風向き、ですか?
 今度は風向きを……確かめていらっしゃる?

「ウ、ウソだろ……こ、こんなことって、ありえるのか?」

 七五三くん、何かにビックリ。
 私は、もぉ、完全に意味がわかりません……。

 次に彼は、両手を使って窓を作る。
 画家とか映画監督とか、そういう人が自分の作品の構図を考えるポーズ。
 どうしたらいいのかわかんない私は、校舎裏でずっと『気をつけ』。

 えっと、あの……私、今、何してたんだっけ?
 そ、そうだ!
 告白だ!

 私、七五三くんにコクッてたんだよ!
 でも、コクッて『気をつけ』のポーズって、一体何?

 七五三くんが、私に近づいてくる。

 地面に置いていた自分のスクールバッグを開き、中から茶色い何かを取り出した。
 パルプ紙で表紙が作られた、小さめサイズの――ノ、ノート?

 それ、ノートなの?
 辞書じゃなくて?
 あ、厚っ!

 それを開き、真剣な顔で、七五三くんがペンを走らせる。
 『気をつけ』のポーズのまま、私はこっそりと、彼のノートをのぞき込んだ。
 なんだかよくわかんない記号が、次々と書き込まれていく。

 な、何ですか、それ?
 見たこともない文字だよ。
 ちょっと、古代文字っぽい?
 遺跡とかに書かれている、あの感じ。

 色んなイラストや数式みたいなのが、ものすごいスピードで書かれてます……。
 おまけに、何が書いてあるのか、さっぱりわかりません……。

「あの、七五三くん……それは、その……何?」

「あぁ、うん。キミが一体どんな人物なのか、今ちょっと確認してるんだ」

「は、はぁ……そうですか……おそれいります……」

 私を確認?
 その謎の文字で?
 記号で?
 数式で?
 一体、私の、何がわかるの?

 七五三くんは、サラサラとペンを走らせ続ける。
 『気をつけ』のポーズのまま、私はその場に棒立ち。

 あ、あの、あのね、七五三くん。
 私、これ、人生、初告白だったんだよ?
 初告白でこれって、一体、どういう状況?

「よし! すべての謎は解けた!」

 あ、あぁ……。
 はい、そうですか……。
 良かったです……。
 って言うか、私には、あなたのすべてが謎なんですけど……。

「でもこれは、ボクが悪かったなぁ……」

「な、何がでしょう?」

「完全にボクのミステイクだ。ボクはキミを見つけることができなかった」

「は、はい?」

「本当に、すいませんでした」

 いきなり、七五三くんが私に深々と頭を下げる。

 え? え? え?
 な、なんで?
 何が、『すいませんでした』?

 顔を上げた七五三くんが、スクールバッグに分厚いノートを戻す。
 入れ替えるように、中からウエットティッシュを取り出した。
 一枚を抜き取り、手を拭く。
 右手を、私に差し出してきた。

「あの、葉月しずくさん。良かったら――ボクとお付き合いしていただけませんか?」

「は、はい?」

「ダメでしょうか?」

「え? いえ、わかりました。よ、よろしくお願いいたします」

 彼の右手を、私は握り返す。
 すると彼は、子どもみたいな顔でほほ笑んだ。

「うわぁ。すごく嬉しいよ。どうもありがとう」

 えっと、あの……これは一体どういう状況なんでしょう?

 コクッたの、私、だよね?
 え?
 七五三くん?

 どっち?
 どっちなの?

「じゃあ、今日からボクたちは恋人同士だ。呼び方は、どんな感じがいい?」

「えっと……な、七五三くんにおまかせします……」

「そっか。じゃあ、最初は――苗字呼びでいこう」

「うん。わかった……」

「色々と決まったところで、いっしょに帰ろっか」

 スクールバッグを拾いあげ、七五三くんが歩きはじめる。
 あわてて自分のスクールバッグを取り、私は彼の横に並んだ。

 初めていっしょに歩く、私と七五三くんだけの校内。
 私たちが、付き合いはじめた瞬間。

 って言うか、これって、何?
 こういうので、いいの?
 コクるって、ホントにこんな感じ?

       𖧧

 帰りの通学路を歩きながら、私はとなりの七五三くんを見る。

 やっぱ彼、横顔も超イケメン。
 女子にモテる要素、テンコ盛り。
 この人が……私の……生まれて初めての彼氏……。

「ねぇ、葉月さん」

「え? な、何?」

「葉月さんって、今まで彼氏とか、いたことある?」

「ううん。ないよ。そういうの、あんまりよくわかんなかったから」

「そっか。じつはボクも彼女ができるのは初めてなんだ」

「そ、そうなの? 七五三くん、すっごくモテそうなのに?」

「そう?」

「そうだよ! なんか、その、とにかくすっごくモテそう!」

「あのね、葉月さん――」

 七五三くんが立ち止まり、真顔で私を見つめる。

「モテるとか、モテないとか、そういうのは、どうだっていいんじゃないかな? 大事なのは、自分が好きな人に『好き』って言われること。そう思わない?」

「そ、そうだね……うん、それは、ホント、そうかも」

「ほら、葉月さん。見て。今日も綺麗な夕暮れだ」

 七五三くんが、オレンジ色に染まった町の風景を指さす。
 彼のとなりで、私もそれを見つめた。

「思い出って、きっとこういう風景といっしょに心に残っていくんだろうね。ボクたちが恋人同士になって、初めていっしょに見る夕暮れだ。ボク、これ、ずっと覚えとくよ」

「うん……私も、覚えとく……」

 私と七五三くんは、夕暮れの中、家に向かって歩いていく。

 でも何だろ? この気持ち。
 なんか、落ち着くなぁ……。

 話したのは今日が初めてだけど、私、七五三くんといっしょにいると、なんかラク。
 カッコつけなくて、いいような気がする。

       𖧧

 その日――私に、生まれて初めての彼氏ができた。

 私の彼氏・七五三くんは、とっても変わった人。
 すごくすっごくヘンな人。
 でも告白する前より――私は、彼のことが好き。

『モテるとか、モテないとか、そういうのは、どうだっていいんじゃないかな? 大事なのは、自分が好きな人に『好き』って言われること。そう思わない?』

 あの夕暮れの中で、七五三くんが言った言葉。
 なんか、すごく深い。

 彼って、たまに子どもみたいな顔をするけど、ホントはすごく大人なのかな?
 なんか、マジで、他にはいない感じの人。
 一体、何を考えてるのか、さっぱりわかんない。

 私の彼氏は、ヘン。
 めっちゃ、アレ。
 つまり、アレカレ!

 でもそんな彼といっしょに過ごすのが、今からとっても楽しみだよ。