女神アフディーの初恋

 彼女は拾い上げた花びらを、考えるように見つめます。

「本当の愛を知る者は、薔薇を摘みません。ただ、その花が枯れるまで静かに見守るものです。形を崩し、泥にまみれさせるような執着を、私の教室では二度と「愛」などと呼ばせません。……わかりましたか?」

 ベンとメアリーは、反論する言葉すら見つからず、ただ冷たい銀縁眼鏡の奥を見つめ返すことしかできませんでした。
 女教師はゆっくりと教壇へ戻ると、彫像のような所作で一同を見渡します。

 彼女が放つ威圧感に、生徒たちは呼吸することさえ忘れたかのように、身を固くしています。

「……よろしい。では、今日は皆さんに「愛」の真理を理解していただくため、ある古い神話の話をしましょう」

 彼女は銀縁の眼鏡を指先でわずかに押し上げ、遠くミシシッピの空の先を見つめるように目を細めました。その声は先ほどまでの鋭さを失い、かわりに深く、朗々とした響きを帯び始めます。

「みなさん。愛を司る女神、アフディーはご存じですね?」

 それは、遥か雲高く、人間たちの汚れが一切届かぬ場所にある神々の国。天上界。
 そこにはまだ、我々が知る艶やかな姿ではなく、無垢で幼い少女の姿をしたアフディー様がいらっしゃいました。
 
 黄金の光が降り注ぐ神殿の庭で、幼き女神は何を思い、その小さな手に何を抱いていたのか。彼女がまだ、本当の『愛』の残酷さを知る前の物語です。