蝶に惚れた華

僕は容姿がいいらしい。

だから女の子だって困ったことはないけど、いつも「愛が感じられない」と言われて振られる。

愛が感じられない?

やりたいこと一緒にしてるのに?

意味が分からない。

今だってそうだ、僕は進行形で先輩に振られている。

凄い泣いてるんだけどどうしていいか分からない。

この人は僕に何をして欲しいんだろう。

あっ……行っちゃった。

明日実鳥(みどり)に怒られるんだろうなぁ。

用事が済んだ僕は校舎裏から退散した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(らん)!お前また彼女に振られたんだって〜?」


本当にどこから聞きつけてくるのやら……思わず深い溜息が出る。

それに彼もはぁっと息を吐き出した。


「高校生になって何人目だよ」


「じゅう……ろくとか?」


「16人も騙されたのか。これだから容姿だけでモテてる奴は」


「モテない奴に言われてもなぁ」


ムッと機嫌が悪くなる。


「もう宿題写さしてやんねー」


「冗談じゃないですか実鳥(みどり)く〜ん」


幼馴染の機嫌をこれ以上損ねないように取り繕う。

そんな2人の間に夏の風が舞い込んだ。

前髪が無くなるぐらいの空気圧。

僕は隣の女の子に目を奪われた。

普段から物静かで本ばっかり読んでる別世界の人。

普段は重たい前髪で隠れている瞳が顕になった瞬間、平穏だった心が波を立て始めた。


「可愛い……」


「どうした急に、キモイぞ」


いつもなら反論する言葉にも反応出来ないくらい脳が麻痺している。

チャイムが鳴って実鳥が自席に戻っていく。

もう夏休みも近いから特に授業をする訳でもなく課題を終わらせるための自習時間。

彼女はモクモクとペンを走らせる。


「あの、真希(まき)さん」


「なんですか?」


今まで関わったことのない女の子。

真っ黒な重たい前髪に腰まである三つ編みに眼鏡を掛けている。


「真希さんに一目惚れしちゃった」


一瞬固まった真面目な人。


「何言ってるんですか?」


「真面目だよ」


「残念ですがタイプじゃないので」


振られてしまった。

心が痛い……こんな気持ち初めてだ。

だがここで諦める訳にはいかない。

初めてここまで気分の浮き沈みが激しいんだ。


「どんなタイプが好きなの?」


「誠実な人です」


誠実な人か。

1番分かりやすくて1番難しいな。

その後は何も言わずにジッと見続けているとコツンっと肘で突かれた。

え〜〜〜♡かわい〜〜〜〜〜〜♡

何その可愛い肘突き!!!


「課題やったらどうですか」


「やったら褒めてくれる?」


「なんで褒めなきゃいけないんですか」


呆れたような声のトーンにドキリとする。

一目惚れしてまだ数分しか経っていないのに心臓がずっと煩い。

治療薬はないのだろうか。

正直課題は面倒臭いが、もしかしたら真希ちゃんが褒めてくれるかもしれないと一縷の望みをかけて終わらせた。

終了のチャイムが鳴ると同時に真希ちゃんにサッと近づく。


「見てよ、終わらせた」


小さく拍手をしてくれる。

手がちっちゃくて可愛い。

僕の半分ぐらいしかないんじゃないか?


「普段からやればいいのに」


「真希ちゃんが褒めてくれるなら」


ニコッと皆から王子様スマイルと言われている笑顔を作る。

彼女は顔を歪めてドン引きしていた。

おかしいな、基本女の子には効くはずなんだけど。


「ねぇ真希ちゃん、LINEやってる?」


「やってますけど」


「交換しようよ」


多分断られるんだろうなぁ。

そう思っていたから彼女からの言葉を聞いた瞬間目が飛び出そうだった。


「いいですよ」


「えっ!いいの!?」


真希ちゃんは出していたスマホをスっと仕舞う。


「待って待って仕舞わないで!」


アプリを開き、QRコードを読み取る。

綺麗な空の画像に平仮名でまきと書いていた。

スタンプを送ってみると直ぐに返ってくる。


「これで何時でも連絡出来るね」


「……返信遅いですよ」


「いいよ。気長に待つから」


速攻でピン留めしておく。

僕のちゃんとした初恋はいいスタートダッシュをきった。

短縮授業だから昼前で生徒達は帰っていく。

真希ちゃんと一緒に帰ろうとしたけど部活があるからと断られてしまった。

なんの部活してるんだろ。

美術部とか?

文化部系っぽそう。

けど運動神経いいんだよなぁ。

バスケする時、華麗にシュート決めてたから運動部もありえる。


「にしてもさぁ、急にどうしたよ。津調(つちょう)さんにグイグイしてさ」


「僕さ、一目惚れしちゃった」


実鳥がこの世のものとは思えない顔をしている。

思わず持っていた100%オレンジジュースを落としかけたほどだ。


「何があった?」


「今日風めっちゃ強かったじゃん。そん時顔見えちゃってさ、かわいーってなって」


「面食いか」


ピースでそれを肯定する。


「でもさ、まじでなーんも知らないんだよね。ここから付き合えるかな?」


「蘭しだいじゃね」


適当な回答に見えて的を得ている発言。

頭が痛い。


「なぁ実鳥。僕の恋愛相談乗る気ない?」


「報酬があるなら考える」


「じゃあオレンジジュース奢るわ」


「乗った」


ガシッと固い握手を交わす。

一先ず財布を家に忘れる失態を犯してしまったのでファミレスとかには行かず、僕んちで作戦会議をすることにした。

賞味期限切れギリギリのお菓子を出してメモ帳とペンを机の引き出しから取り出す。


「まず!真希ちゃんのタイプは誠実な人らしい」


「なるほど正反対だな」


「誠実ってなに?」


「16人も彼女に振られない人」


脆くなっていた僕の心は粉々に砕け散った。

やばい。

同タイプの子としか付き合ったことしかないから何していいか分からない。

…………。


「見た目から変えてみる?」


言ってから金色の髪を触る。

そこからバチバチに開けたピアスに触れて服を見た。

皆ならこういう時どうするんだろ。

肘が膝からズレて落ちる。


「うわっ」


ガンっと頭を机にぶつけた拍子に氷が振動で踊る。

そう言えばこの格好、好きで始めたんだっけ?


「なぁ実鳥、僕っていつからこうなったんだっけ」


「え?あぁあのピンク髪の彼女の時だよ」


申し訳ないが顔が全く思い出せない。

写真フォルダから遡って見ると意外に早く見つかった。

ザ・ギャルみたいな見た目の子。

確か「あたしに合わせて」って言われて、こうなったんだっけ。

そもそも僕ってどんなものが好きなんだっけなぁ。

昔の写真。

あぁそっか。

僕はキラキラしたものが好きだっけ。


「明日からキラキラになる」


「今もキラキラなのに?」


「内面の話」


横からベッドに寝転ぶ。

天井のシミが顔みたいで怖いと思ってた幼稚園時代。


「今からちょっと手伝ってよみーくん」