愛しい君へ〜君が振り向くその日まで〜



橙色の空にカラスの声が似合う夕暮れ時の日曜日。
わたし笠井(かさい)ひよりは、お弁当箱を二つ抱えながら、2階の202号室を目指し、階段を上っていた。

そして2階に上り切ったすぐ目の前にある202号室のインターホンを押す。

少し待つとその扉は開き、中から顔を覗かせたのは、長身に焦げ茶の髪を揺らす男性。
幼馴染で2つ年上の兄的存在でもある五藤匡(ごとう たすく)だ。

「おっ、ひより。」
「夕飯作ってきたよ〜、一緒に食べよ!」

わたしはそう言って、二人分のお弁当を持ち上げて見せた。

匡はお弁当を見ると、瞳を見開き驚いた様子で「わざわざ持って来てくれたの?!連絡くれれば、俺から行ったのに!」と言った。

「たまには、匡の家で食べるのもいいかなぁ〜って思って。」

わたしがそう言うと、匡はわたしが持って来た二人分のお弁当箱を代わりに持ってくれ、「ほら、入れよ!」と言いながら扉を大きくを開き、わたしを中へ促してくれた。

「お邪魔しまーす。」

中に入ると、いつも通りの殺風景でシンプルな匡の部屋が広がっており、"The男の部屋"という印象だ。

匡はお弁当箱をテーブルの上に乗せると、「今日の夕飯は何かなぁ〜?」とワクワクしたような口調でラグが敷いてあるフローリングに胡座をかいて座った。

「今日は野菜の肉巻きとマカロニサラダと、あとは玉子焼き!」

わたしはそう言いながら、二段になっている方の匡用のお弁当の蓋を開けた。
そして開いたお弁当箱の中身を見て、「うわっ!美味そ!」と言う匡は、そのあとで改まったように「いつも美味しいご飯ありがとうございます。」と続けた。

「どういたしまして!さっ、冷めないうちに食べよ!」

わたしはそう言って、テーブルを挟んで匡と向かい合うように座ると、ある重大なミスに気付いてしまった。

「あっ、箸忘れて来た!」

そう言って、わたしが"やばっ!"というような表情を浮かべると、匡はすかさず立ち上がり「割り箸ならあるよ!」と言って、食器棚の引き出しから2膳の割り箸を持って来てくれた。

「うっかりしてたわ〜。箸が無くちゃ食べれないのにね。」
「箸くらいうちにあるから大丈夫だよ!それより、早く食べよっ!」

匡はそう言って手を合わせると「いただきます!」と言い、割り箸を綺麗に二つに割った。

そしてまずは野菜の肉巻きから口へ運び、頬張ると、匡は目を閉じながら美味しそうに「ん〜、やっぱひよりの作る飯はウメェわ!」と唸っていた。

その言葉と表情が嬉しくて、わたしはいつも匡に料理を作ってあげたくなってしまうのだ。