Nocturne(ノクターン)ー美しさは静かに交差する

そして——

あの日。

暗い部屋。
カーテンの隙間から差し込む、滲んだ夜景。

写真はぶれている。
文字は、短い。

“聞き間違いだったらいいのに。”

゛いないっていってたよね゛
゛え、いつから私勘違いしちゃったんだろ゛
゛恥ずかしい゛

私が好きだったって、気付かれてないといいな。

旬の指が、かすかに震える。

その次。

“ちゃんと終わらせよう。”

゛始まってもなかったんだから、終わりも何もないのか゛
゛こわい゛

ずっと一人で頑張って来たのに、
ひとつの恋でこんなに崩れるなら、
もう二度と誰のことも好きにならない。

やさしかったのに。
好きだったのに。
キスって簡単に出来るんだね。

さらにスクロール。

“泣いてる自分が情けない。”
何をしてても勝手に涙が出てきちゃう。

私には会社がある。
こんなことで崩れてるようじゃ、みんなを守れない。

大丈夫。

——強がりの、最後の一行。

旬の視界が、少し滲む。

隣で、希は黙っている。
思い出すだけで、息が苦しくなる夜。

旬は、ゆっくりとスマホを閉じる。

しばらく何も言わない。

喉の奥が、熱い。
言葉が、出ない。

希が、不安そうに覗き込む。

「見なきゃ良かったね。最後の方の投稿、すっかり忘れてた」

旬は、静かに首を振る。

そして、希を強く抱き寄せる。

昨日より、はっきりと。
迷いなく。

「俺、なにしてたんだろ」

低い声。

「こんなに好きだったのに」

希の目が揺れる。

「旬は悪くない」

「違う」

抱きしめる腕に、力がこもる。

「俺は、希が泣いてた日、知らなかった」

それが悔しい。
心の底から。

「ごめん」

希は、首を振る。

「でも、ちゃんと見つけてくれた」

あの日、別れを決めた直後。
それでも、繋がった。

旬は、両手で希の頬を包む。

真っ直ぐに、目を見る。

「これからは、泣かせない」

約束みたいに。

希は、少し笑う。

「それは無理。私すぐ泣く」

涙を溜めたまま、冗談めかして。

旬は、そっと額を合わせる。

「じゃあ、泣くなら俺の前だけ」

その言葉に、希の目がまた潤む。

隠さなくていい。
強がらなくていい。

暖炉の火が、静かに揺れている。

過去の涙も、
今この腕の中で、ようやく居場所を見つけたみたいに。