Nocturne(ノクターン)ー美しさは静かに交差する

「じゃあさ」

ゆっくりと額を近づける。

「これからは、怖くなったら言って」

逃げない声。

「一緒に怖がる」

希の目が、じんわり潤む。

「……うん」

雪は、窓の向こうでまだ降っている。

けれど二人の間には、
もう迷いよりも、確かな温度があった。

「旬に出会ったこと、誰かに話したくて鍵垢作ったの」

希は、少し照れくさそうに笑う。

「友達には話してないの?」

「恋愛のこと、今まであんまり話したことないし」

少しだけ間を置く。

「もしダメだった時、つらいから」

その慎重さが、これまでの時間を物語っている。

旬は、ゆっくりと希を抱き寄せる。

強くじゃない。
包み込むみたいに。

「でも、誰にも読まれないから正直な気持ち綴れたよね」

「うん」

小さな声。

「これからは怖がらなくていい」

耳元で、低く。

「うん」

もう一度、小さく。

しばらく、何も言わない。

ぱち、と暖炉が鳴る。
火の揺れが、壁にやわらかい影をつくる。

旬が、ふと呟く。

「最初から好きだったなら」

「うん?」

「もう俺の負けじゃん」

希が顔を上げる。

「なにそれ」

「俺は積み重ねたけど、希は一瞬で落ちてる」

「いやいや、出会った日寝れなかったんでしょ?」

「……あれはもう落ちてる」

二人で笑う。

その笑いは、昨日よりずっと自然で、穏やか。

余計な強がりも、探りもない。

希が、ぽつりと呟く。

「ねぇ、旬」

「ん?」

「私、ちゃんと幸せになっていいんだよね?」

その問いは、どこか遠慮がちで、少しだけ切ない。

幸せを願うより先に、
許可を求めてしまう癖。

旬は迷わない。

「俺とだけどね」

さらりと、でも真剣に。

希の目が、じわりと潤む。

今度は、希のほうから。

そっと、唇を重ねる。

甘いけれど、静か。

確かめるみたいに。
言葉よりも、ずっと確かなもの。

旬の手が、後ろ髪に触れる。

離れたあとも、額が近いまま。

窓の外では、また雪が降り始めている。

白く、やわらかく、静かに。