Nocturne(ノクターン)ー美しさは静かに交差する

「……旬?」

まだ夢の続きみたいな、やわらかい声。

旬は抱き寄せた腕を、ほんの少しだけ強くする。

「起きた?」

希がうっすら目を開ける。

白い天井。
カーテン越しの朝の光。
自分を包むあたたかい腕。

数秒、状況を理解して——

一気に顔が赤くなる。

「あ……」

昨夜の記憶が、静かに、でも鮮明に戻る。

旬はその変化を見逃さない。

「なにその顔」

「……はずかしい」

希は旬の胸に顔を埋める。

隠れているつもり。

でも耳まで赤い。

旬はくすっと笑う。

「かわいい」

「やめて」

くぐもった声。

「後悔してるの?」

少しだけ意地悪く。

希はすぐに顔を上げる。

「してない」

即答。

その目が真剣で、まっすぐで。

旬の胸が、じんわりと熱くなる。

「ほんとに?」

希は小さく頷く。

「……幸せ」

言った瞬間、また恥ずかしくなる。

でも目は逸らさない。

旬はその頬に触れる。

親指でそっとなぞる。

「俺も」

短い言葉。

でも、深い。

昨夜よりも距離が近い。

触れ方が、もう自然だ。

「旬、寝顔ちょっと怖い」

「は?」

「眉間にしわ」

「嘘つけ」

「ほんと」

くすくす笑う。

「俺は幸せすぎて寝れなかった」

「嘘」

「ほんと」

目が合う。

さっきまでの軽さが、少し消える。

「希」

名前を呼ぶ声が低い。

「うん」

「今日も一緒にいられるね」

当たり前のはずなのに、確認するみたいに。

希は少し驚いて、すぐに微笑む。

「嬉しいね」

その言葉が、何より嬉しい。

「離さない」

「重い」

「今さら?」

二人で笑う。

カーテンの隙間から、朝の光が差し込む。

外には、静かな雪景色。

北海道の朝は白くて、やさしい。

希がぽつりと言う。

「ねぇ」

「ん?」

「昨日の星、ほんとにすごかった」

「うん」

「写真撮ったの。お風呂で」

「しってる」

「やっぱりみたんだ!」

「綺麗だった」

「恥ずかしい」

旬は少しだけ意地悪く言う。

「もう俺のだし、いいじゃん」

「俺のって」

不満そうな顔を作る。

「俺の彼女なのに」

その言葉に、希が止まる。

「……彼女」

小さく繰り返す。

旬はさらっと言う。

「俺の婚約者」

「いいの?」

また赤くなる。

でも、嬉しそう。

旬は希を抱き寄せる。

さっきより自然に、深く。

「今日も綺麗だよ」

「起きたばっかりだよ?」

「関係ない」

希は少しだけ背伸びをして、

自分からキスをする。

短く。

でも、確信のあるキス。

離れたあと、目が合う。

昨夜よりも、ずっと近い距離。

「もうちょっとだけ」

希はもう一度、旬の胸に戻る。

腕の中で落ち着く。

旬は天井を見上げる。

——この世に、これ以上の幸せあるのか?

答えはまだ分からない。

でも今は、これで十分だった。

白い朝の光の中で、

ふたりの未来は、静かに始まっている。