Nocturne(ノクターン)ー美しさは静かに交差する

部屋に戻ると、雪で冷えた空気の中に、露天風呂の湯気がやわらかく漂っていた。

旬が自然に声をかける。
「一緒に入る?」

希は即答する。
「無理」

旬がくすっと笑う。
「なんで」

「無理なものは無理」

頑なに首を振る希に、旬は少し考え込むように目を細めた。
やがて、穏やかな笑みを浮かべて言う。
「じゃあ、先どうぞ」

余裕のあるその顔に、希は思わず目をそらす。
彼の静かな強さと、自然な優しさが同時に胸に迫る。

湯気がゆらゆらと立ち上る露天風呂。外は静まり返り、空の星が湯面に映っている。

希はそっと肩まで湯船に沈む。温かさが体を包み、思わず目を閉じる。ゆっくりと顔を上げ、満天の星空を見つめる。怖いくらいに澄んだ光。手元のスマホで、その光景を撮ろうと露天の縁に置く。

——パシャ。

瞬間、後ろから小さな物音がする。振り返ると、湯気の向こうに旬が立っていた。当たり前の顔で。

「……まって。なんで?」

声が少し裏返る。希は慌てて背を向け、湯船の中で鼻まで沈めて小さく丸まった。

旬は困ったように笑う。
「せっかく来たのに、一緒に入らないなんて無理でしょ」

その声は穏やかで、でも少しだけ挑発的。

湯気がゆらめく露天風呂。夜空の星が湯面に揺れ、静寂が二人を包む。

「む、無理って言った」

希の声に、旬は少し黙る。湯船に入る音、水面が揺れる。だが、距離を崩さず、そっと控える。

「みた?」

「見てない」

「ほんと?」

「ほんと」

少し間。

「今は」

希は目を閉じる。

「今は、って何」

旬は空を見上げ、声を落とす。

「星、やばいな」