Nocturne(ノクターン)ー美しさは静かに交差する

店内の灯りは落ち着き、テーブルのキャンドルだけが柔らかく揺れる。

旬はナイフとフォークを揃えたまま、少し黙る。
希はその沈黙に気づき、小さく聞く。

「緊張してる?」

旬は少し笑って、素直に答える。

「してる」

その正直さに、希の胸がじんわりと温かくなる。

ウェイターがデザートの説明に近づくが、旬は静かに声をかける。

「少し、待ってもらえますか」

声のトーンが、いつもと違う。
ウェイターは一瞬で察し、静かに下がる。

テーブルの上に、短く濃密な沈黙。

旬はポケットに手を入れ、小さな赤い箱を取り出す。
見た事のあるロゴ。

希の呼吸が、ふっと止まる。

「え……」

視線はまっすぐ希を見つめている。

箱をそっとテーブルに置く。
小さな「カチ」という音。蓋を開けると、カルティエのネックレスが現れる。
シンプルで、強くて、無駄のない輝き。

希の喉が小さく鳴る。

旬はゆっくり声を落とす。

「希」

いつもより低く、深い響き。

「結婚を前提に、付き合ってください」

雪の光とキャンドルの揺らめきの中、二人だけの時間が、静かに、確かに止まった。

まっすぐな視線。逃げ場のない声。
押しつけではないけれど、確かに届く声。

店内のざわめきが遠くなる。
夜景も、雪も、すべてがぼやけて、ただ旬の目だけがはっきりと希をとらえていた。

言葉が出ない。胸がいっぱいで、息が少し詰まる。
守られたいと思った。でも、今は――
守られるだけじゃない。
この人の隣に立ちたい。

「……ずるい」

涙がにじむ。

旬が眉を少し下げる。

「何が?」

「こんなところで」

「ちゃんとしたかった」

その一言に、全部が詰まっていた。
“ちゃんとしたかった”――ただそれだけで、希の胸は震えた。

小さく息を吸う。

「はい」

声は震えているけれど、はっきりと言う。

「よろしくお願いします」