Nocturne(ノクターン)ー美しさは静かに交差する

30分後。

希はまだ鏡の前で、ピアスを迷いながら手にしている。
旬はソファーに座り、スマホを触っている。

ふと顔を上げる。
「まだ?」

「まだ」

「一時間って本当だな」

「言ったでしょ」

旬が立ち上がり、ドレッサーの後ろに回る。
鏡越しに目が合う。

「緊張してる?」

「ちょっと」

「なんで?」

「だって、ちゃんとしたレストランなんでしょ」

「希ならどこでも大丈夫」

さらっと言う言葉に、真剣な視線が混ざる。

ドレスに着替えた希が立ち上がる。
まだピアスはつけていない。
背中のラインが少し見える。

旬の呼吸が一瞬止まる。
「……やば…」
思ったより背中が深くあいている
「それ、前ってどうなってるの?」

小さくつぶやく。
希が振り向く。
「内緒」

「一時間の意味、わかった」

低い声。
近づくけれど、触れない。
触れたら崩れそうだから。

希の喉が小さく動く。
「似合う?」

旬は迷わず答える。
「似合いすぎ」

その言い方は少し危うく、希の胸をざわつかせる。

ピアスをつけながら希が聞く。
「旬は?」

「俺?」
ネクタイを締め終えた旬は完璧な仕上がりだ。

「どう?」
希はまじまじと見つめる。
「……ずるい」

「何が?」

「かっこいい」

旬が笑う。
「知ってる」

冗談のように言うけれど、目は離さない。
少しだけ近づき、軽くキス。
唇が触れる程度で、リップはつかない。

「崩れるからやめて」
希の声は少し緊張している。

「レストラン前だから我慢する」

あの夜と同じ言い方に、二人は少し笑う。
でも空気は甘く、胸が静かに熱くなる。