Nocturne(ノクターン)ー美しさは静かに交差する

「着いたよ」

窓の外で手を振る旬。
希の胸がじんと熱くなる。
(やっと会える……)

「ありがとう、いきます」

「おはよ。」

スーツケースを運んでくれる手も自然で、力強い。
今日も、やっぱりかっこいい。

車は静かに動き出す。
高速に乗ると、心地いい音楽が流れる。

希はふと、車内を見渡す。

(この車……いつもさりげなく乗ってるけど、間違いなく高級車だよね。マンションも凄かったし)

羽田の駐車場も、きちんと予約されている。
「会社のだよ」と旬は言っていた。

でも、会社の車をプライベートでも使えるのか。
希の頭の中で小さな疑問がふと浮かぶ。

でもすぐに、そんなことどうでもよくなるくらい、
旬と並んでいるこの時間が、心地よかった。

窓の外の景色は流れ、
車内には二人だけの静かな朝が満ちている。

空港に着くと、旬は迷いなく専用入口へ向かう。
手慣れた足取りで、ビジネスクラスのカウンターへ。
優先レーンを通り、淡々と手続きを進める姿は、まるで日常の延長のようだった。

静かに息を吸う。嬉しい。
でも同時に、少し緊張もする。

希が小さく声をかける。
「ねえ」

「ん?」

「ねえ、いくらした?私自分の分くらい払うよ」

旬は一瞬だけ表情を変える。
怒っているわけではない。
ただ、少し真面目になる。

「希は、そんなこと気にしなくていいよ」

優しい声なのに、どこか強さが混じっている。

「でも」

「俺が行きたいって言ったし」

視線はまっすぐ、動かない。

「俺が一緒に行きたいって決めたの」

少し間を置いて、穏やかに、でもしっかり線を引くように言う。

「だからいいの」

叱るのでも、命令するのでもない。
ただ、二人の間に揺るがない答えを示す線。

希は息をのむ。
でも、その線を受け入れるしかない自分を、どこか嬉しく思う。

でも

希は黙ったまま、視線を落とす。
お金の問題じゃない。
対等でいたいだけ。
どう伝えればいいのか、少し迷う。

旬はその迷いを見て、声を少し落とす。
「ほんとに気にしないで。俺が勝手に予約したんだし」

希はすぐに笑顔で返す。
「ありがとう。今度お礼させてね」

でも、胸の奥には小さな疑問が残る。
この人は、どこまでの人なんだろう。
ただのエリート?
それとも…。

思考は途中で止まる。