Nocturne(ノクターン)ー美しさは静かに交差する

「……引かないの?」

小さく尋ねる。

旬は一瞬きょとんとして、それから優しく笑った。

「なんで?」

本気で分からないという顔。

「引くわけないだろ」

頬に、軽くキスを落とす。

さっきのような激しさはない。

静かで、確かなキス。

「俺のほうが、ちゃんとできるか不安だよ」

少し照れたように言う。

その不器用さに、希はふっと笑う。

さっきまで震えていた胸が、今は穏やかに波打っている

さっきまでの激しさは消えて、
触れるたびに確かめるみたいな優しさだけが残っていた。

唇が離れるたびに、
まるで「ここにいる?」と問いかけるように、
そっと触れてくる。

「まだ誰のものでもなかったんだな」

小さく、独り言みたいに。

その声に、希の胸がじんわり温かくなる。

奪う響きじゃない。
誇らしげでもない。

ただ、大切なものに触れている人の声。

所有じゃない。

でも確かに、特別に思われている。

「無理しなくていい。俺がちゃんと、希のペースでいく」

腕の力は強くないのに、逃げ場がないほど安心できる。

さっきまで胸を締めつけていた不安が、
ゆっくり、ほどけていく。

嫌われなかった。

それどころか、
もっと大切に扱われている。

希はそっと、旬のシャツを掴む。

指先が震える。

でも、今度は怖さじゃない。

「……ちゃんと、好き」

小さな告白。

胸の奥にしまっていた気持ちを、
やっと言葉にできた。

旬は少しだけ目を細めて、笑った。

安心したような、嬉しそうな顔。

「うん」

短い返事。

それから、優しく——
今度は本当に優しく、唇を重ねる。

深くはない。

ただ、触れている時間を確かめるような、
静かなキス。

息が苦しくなる前に、ちゃんと離れて。

額と額が触れる距離で、旬が小さく尋ねる。

「これなら大丈夫?」

希は頷く。

胸がいっぱいで、言葉にならない。

鼓動が重なる。

急がなくていい。
焦らなくていい。

その夜、二人の距離は“熱”ではなく、
“信頼”で近づいた。

触れ合うたびに、
好きが、少しずつ形になっていった。