Nocturne(ノクターン)ー美しさは静かに交差する

静かな空気。

さっきまでの涙と笑いの余韻が、まだ残っている。

旬の手が、そっと希の頬に触れる。

温かい指先。

そのまま、優しいキス。

確かめるみたいに、ゆっくりと。

希も目を閉じる。

でもさっきと少し違った。

旬の想いが、溢れている。

唇が、もう一度重なる。

さっきよりも深く。

腕が、強く引き寄せる。

逃げ場のないほど近い距離。

体温が、混ざる。

息が、追いつかない。

胸が押しつぶされそうになる。

希の頭が真っ白になる。

——こんなキス、知らない。

優しいだけじゃない。

必死で、真っ直ぐで、少し不器用なキス。

鼓動が早い。

胸がいっぱいで、少し怖い。

でも、嫌じゃない。

むしろ、怖いくらい嬉しい。

でも…

「く……苦しい……」

希がやっとの思いで言うと、旬がはっとして離れる。

「ごめん」

額を合わせたまま、息を整える。

「……抑えるつもりだったのに」

声が低く震える。


鼓動が早い。
胸がいっぱいで、少し怖い。


「ごめん……急ぎすぎた」

その目は、本気で不安そうで。
さっきまでの熱を引きずったまま、でも必死に抑えている。

希は首を振る。

「ちがうの…」

言葉がうまく続かない。

嫌じゃない。

むしろ、嬉しい。

でも——

言えない。

“こんなふうにされたことがない”なんて。

もし重いと思われたら?
もし面倒だと思われたら?

やっと手に入れたこの温度を、失いたくない。

嫌われたくない。

「大丈夫」

そう言って、笑う。

けれど胸の奥はまだ震えている。

旬はその違和感を見逃さない。

そっと額に触れる。

額と額が触れ合う、静かな距離。

「無理させたくない。ゆっくりでいいから」

低く、落ち着いた声。

焦りも欲もあるはずなのに、それより先に希を気遣う声。

その一言で、希の目にじんわり涙が浮かぶ。

——この人は、ちゃんと待ってくれる。

欲しいから触れるんじゃない。
大事だから、止まれる。

それがわかる。

希は小さく息を吐く。

「……ありがとう」

震えながらも、今度は自分から少しだけ近づく。

そっと、旬の胸に額を預ける。

鼓動が聞こえる。

さっきと同じくらい速い。

自分だけじゃなかったのだと知る。

「俺、ちゃんと大事にしたいんだ」

旬の手が、背中をゆっくり撫でる。

急がない。
奪わない。

ただ、ここにいる。

部屋の空気は、まだ少し熱を帯びていた。