Nocturne(ノクターン)ー美しさは静かに交差する

今、なんて――

頭が追いつかない。

涙が、頬を伝ったまま止まる。

心臓の音だけが、うるさい。

旬は、目を逸らさない。

冗談でも、勢いでもない顔。

逃げないで、と言ったときと同じ震えが、声の奥に残っている。

「はじめから、そう思ってる」

静かな告白が、夜の部屋に落ちた。


希の呼吸が止まる。

「結婚? まだ付き合ってもないのに?」

かすれた声。

嬉しさよりも先に、戸惑いと疑いが浮かぶ。

旬はわずかに眉を寄せる。

「誰が何を言ったか知らないけど」

低く、でもはっきり。

「なんで無視してたの? ずっと探してた」

その言葉に、希の胸が痛む。

探してた――?

「1人で泣かないで」

その一言で、張りつめていたものが崩れる。

希の中に溜め込んでいた感情が、一気に溢れ出す。

「幸せだったのに」

言葉が止まらない。

「旬さんには他に誰かいたのかと思って。私、全然気が付かなくて、バカみたいで」

涙が頬を伝う。

拭う余裕もない。

「楽しかったから。でも、別に何も始まってないし」

喉が震える。

「だったらこのまま終わりにして、元の自分に戻ろうと思って」

旬の表情が強張る。

希は視線を落としたまま、続ける。

「本当のこと、旬さんから聞いちゃったら、もう立ち直る自信ない」

息が浅い。

「だったらもう、二度と会わないで終わろうって」

そこまで一気に話して、言葉が途切れる。

涙が溢れる。

止まらない。

「ごめんなさい。こんな風に泣くつもりじゃないのに」

肩が震える。