Nocturne(ノクターン)ー美しさは静かに交差する

「結婚考えてる人がいるらしい」

その言葉を口にしたら、何かが壊れる気がする。

でも、聞かなければ、壊れたまま。

旬は、急かさない。

何も言わない。

ただ、待っている。

長い沈黙。

時計の音もない部屋で、自分の鼓動だけが響く。

やっとの思いで、喉を開く。

声は、掠れていた。

「……結婚、考えてる人がいるって」

言葉が、空気に溶ける。

「聞いた」

視線は、まだ上げられない。

指先が震える。

「だから……終わらせようと思った」

最後の一言は、ほとんど息だった。

静寂。

その静寂の中で、旬の呼吸が止まった気がした。

空気が、止まる。

旬の目が大きくなる。

「は?」

低くもなく、高くもない。
本気で理解できないときの声。

「何言ってんの?」

心から驚いている顔。

演技じゃない。

その表情に、希の胸がまた揺れる。

「昨日の食事会で聞いた」

声が割れる。

喉が痛い。

「結婚考えてる人がいるって」

言ってしまった。

引き返せない。

旬の眉が寄る。

「……誰に」

「同じテーブルにいた人。普通に、そういう話になって」

涙が、ぽろりと落ちる。

止められない。

「いないって言ってたのに」

震える。

「だから、好きになったのに」

その言葉が、部屋の中央に落ちる。

静かに。

でも重く。

それ以上は、何も言えない。

こんなふうに感情をぶつけたのは、初めてだった。

強がりも、余裕もない。

ただの、本音。