Nocturne(ノクターン)ー美しさは静かに交差する

エンドロールが静かに流れ、
場内の灯りがゆっくりと戻る。

触れていた肩が、
自然と離れる。

どちらからともなく。

けれど、名残の熱が残っている。

外へ出ると、夜。

銀座の空は深く、
ビルの灯りがにじんでいる。

冷たい空気が、
火照った頬に心地いい。

しばらく並んで歩く。

言葉はない。

でも、気まずさもない。

「面白かったですね」

旬が言う。

穏やかな声。

いつも通りの温度。

希は一瞬、間を置く。

胸の鼓動が、まだ少し速い。

「……はい」

嘘ではない。

映像も、音楽も、美しかった。

でも。

正直でもない。

旬は気づく。

わずかな間。

わずかな視線の揺れ。

「内容、入ってました?」

静かに聞く。

責めるでもなく、からかうでもなく。

ただ、確かめるように。

希は少しだけ笑う。

観念したように。

「半分くらい」

正直な数字。

旬も笑う。

「僕は三割です」

目が合う。

一瞬。

同じだった。

スクリーンよりも、
物語よりも。

意識していたのは——

隣。

夜風が二人の間を抜ける。

でも、さきほどの距離には戻らない。

「ヨーロッパ映画、難易度高いですね」

希が言う。

「ええ。特に今日は」

意味が、少し重なる。

沈黙。

けれど、今度は逃げない。

旬がゆっくり言う。

「肩、嫌じゃなかったですか」

直球。

でも声は低く、優しい。

希は視線を少しだけ逸らす。

思い出すだけで、
また心臓がうるさい。

「……嫌なら、離れてます」

小さな答え。

でも、十分。

旬の呼吸がわずかに変わる。

安堵と、確信。

三割しか入らなかった映画。

でも残りの七割は、
たぶん二人の記憶になる。

夜の街に、
まだ続きがあるような気配が漂っている。